炎症性腸疾患の患者体験アプリ
~授業中でも「3分以内にトイレ」~
炎症性腸疾患(IBD)の具体的な症状や、生活の中で生じるさまざまな悩みを疑似体験できるアプリ「In Their Shoes」を東洋大学食環境科学部の学生らが体験した。アプリは武田薬品と英国の会社「A Life In A Day」が共同開発。IBD患者の症状が日常生活に及ぼす影響を実感できるよう考えられた。通知や電話からの指示に24時間従うことで「追体験」が可能に。体験後の報告会で、「今後、自分はどんな『患者中心の行動』を実行できるか」を具体的に話した。患者のためにできることとは何か。

電車の中で届いたアプリからの指令内容。突然トイレに行かなくてはならない患者の日常を実感する
◇若いうちから発症も
IBDは消化管粘膜に炎症や潰瘍が生じる疾患で、いずれも指定難病の「潰瘍性大腸炎」と「クローン病」を主に指す。発病の原因は不明とされているが、免疫の仕組みに何らかのエラーが生じ、腸などを攻撃するのではないかと考えられている。
多い症状は、慢性的な頻回の下痢、強い腹痛、血便、発熱など。10代後半から発症数が増え始める上、完治が難しいことから、患者は人生の大半をつらい症状を抱えて過ごさなくてはならない。
欧米の発症率が高かったが、国内では90年代から右肩上がりに患者数が増加。武田薬品の製品部門、湯本幹成(ゆもと・みきなり)さんは「衛生環境や食生活の変化が原因の一つと考えられている」と説明する。
国内患者数は潰瘍性大腸炎が約22万人、クローン病が約7万人と推定され、指定難病としては数が多いが、社会全体に認知・理解されているとは言い難いようだ。日々の生活の中でも食事やトイレといった日常的な活動に影響が出て、仕事や学校生活にも支障を来す。おなかの中の疾患のため、見た目で分かりづらいのも課題と言える。
◇突然の腹痛や血便
一日に何度も襲ってくる予兆の無い下痢、血便、腹痛、倦怠(けんたい)感―。潰瘍性大腸炎の症状は、主に大腸の炎症が原因だ。

体験前に説明を聞く大学生。「今まで学校で勉強したことしか知らなかった。病気のことをどの程度の周囲の人にまで伝えようかなど、考えながら挑戦したい」
症状が強く出る「活動期」と症状が治まる「寛解期」があり、患者は数カ月ごとにこれを交互に繰り返す「再燃寛解型」が多い。治療は、活動期の強い炎症を抑え、寛解期を維持することを目標とし、抗炎症作用がある5―アミノサリチル酸製剤、副腎皮質ステロイド薬、免疫調節薬などが使われる。
おなかの症状が強いと聞くと、食事にさまざまな制約があると思われがちだが、「寛解期の患者さんには、特定の食べ物が症状を悪化させるという科学的な根拠はない」と湯本さんは話す。ただ、症状が強い時は、腸を休める必要があるため絶食し、点滴などで栄養補給する。香辛料などの刺激物、コーヒー、アルコール類などは一般的に控えるべきだとされている。
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(2025/03/28 05:00)