潰瘍性大腸炎〔かいようせいだいちょうえん〕 家庭の医学

 粘血便(ねんけつべん)と下痢を主症状とし、慢性に経過する炎症性腸疾患です。直腸から盲腸に向かって連続して炎症が起こり、腸壁の粘膜と粘膜下層がおかされます。多く見られるのは30歳以下の成人ですが、小児や50歳以上でみられることもあります。わが国でも患者数が増加している疾患の一つです。
 細菌、ウイルス、免疫異常、自律神経障害、食事などが病因として研究されていますが、いまのところ原因は不明で、治療にも抵抗性があることから厚生労働省の難病医療費助成制度対象疾病(指定難病)に指定され、医療費の公費負担対象になっています。公費負担を受けるには、各自治体に申請書類を提出しなければなりません。

[症状]
 粘血便が初発症状で、病状の悪化に伴って下痢、腹痛、発熱などが出現します。粘血便は血液にうみがまじった状態で、トマトケチャップやチョコレートに似た色調を呈し、下痢は1日十数回に及ぶこともあります。多くの場合、治療により症状はいったんおさまりますが、完全に治癒することはなく、その後も寛解(病気による症状がおさまっている状態)と再燃(症状がおさまっていた病気が再び発症すること)をくり返します。再燃は春・秋に多く、かぜ、過労、精神的ストレスなどが誘因と考えられています。

[診断]
 国により診断基準が設けられており、大腸の注腸検査、内視鏡検査、生検組織学的検査をおこなって診断します。病変がひろがる範囲によって、全大腸炎型、左側大腸炎型、直腸炎型に分類されます。また、症状の程度により、軽症、中等症、重症に分類されます。
 病変は大腸だけでなく、肝臓病変(脂肪肝、硬化性胆管炎など)、膵(すい)炎、関節炎、虹彩(こうさい)炎、皮膚病変(結節性紅斑〈こうはん〉、壊疽性膿皮〈えそせいのうひ〉症など)などを合併することがあります。また、発症から10年以上経過すると、大腸がんが見つかることもあります。

[治療]
 薬物治療が基本となりますが、症状がおさまっても再燃(症状がおさまっていた病気が再び発症すること)する可能性があることを理解し、病気とともに生活する気持ちをもつことが大切です。
 軽症の場合は外来通院で治療ができますが、中等症~重症では入院が必要で、5-ASA製剤、副腎皮質ステロイド薬、免疫調整薬による治療がおこなわれます。また、高カロリー輸液や成分栄養により、栄養状態を改善することも大切です。
 副腎皮質ステロイド薬の投与法は、軽症の場合は全大腸炎であれば経口投与、左側大腸炎であれば注腸療法、直腸炎であれば坐薬を用います。中等症~重症の場合は点滴治療をおこないます。
 副腎皮質ステロイド抵抗性の場合や副作用のために減量が必要な場合に、生物学的製剤を使用します。生物学的製剤で寛解導入をおこなった場合、寛解維持でも生物学的製剤を使用します。製剤の種類により、数週間から数カ月に1回、点滴または皮下注射をおこないます。
 薬物治療の効果が不十分の場合や、副作用のために薬物の減量が必要な場合には顆粒球除去療法をおこないます。潰瘍性大腸炎では、活性化した顆粒球が炎症部位に集まり組織を破壊し治癒を遅らせます。その顆粒球を除去する治療法で、特殊なビーズに吸着させる方法と特殊なフィルターを通過させて除去する方法があります。外来でも治療可能で、数時間以内で終了します。寛解導入だけでなく、寛解を維持させる治療法としても用います。
 食生活での注意事項は、生野菜や果物など残りかすが多くなるものは避け、また牛乳、コーヒー、カレーなどの香辛料、コーラなどの炭酸飲料、アルコールも避けます。
 適切な治療を受ければ、ほぼ完全な社会復帰、結婚生活、妊娠・出産も可能です。女性では、妊娠をきっかけに悪化することがあります。
 炎症が悪化すると、大出血、穿孔(せんこう)、中毒性巨大結腸症など重篤な合併症を招くことがあり、緊急手術が必要となります。また、内科的治療が無効な劇症例(下痢が15回以上で、血性下痢を伴う)、再燃を何度もくり返す症例、大腸がん発症例も手術が必要となります。

(執筆・監修:医療法人社団哺育会 桜ヶ丘中央病院 外科部長 榎本 雅之)
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