クローン病〔くろーんびょう〕 家庭の医学

 クローン病は、消化管のあらゆる部位に起こる慢性の炎症性疾患です。主として若い成人にみられます。古くは回腸(小腸の一部)末端の炎症と考えられていましたが、口腔(こうくう)から肛門(こうもん)まで、あらゆる部位に起こることがわかっています。
 欧米に多く東南アジアには少ないとされていましたが、食生活の変化によりわが国でも患者数が増加しています。
 細菌、ウイルス、食物、免疫異常などが成因に関与しているとされていますが、病因はあきらかになっていません。厚生労働省の難病医療費助成制度対象疾病(指定難病)に指定され、医療費の公費負担対象になっています。公費負担を受けるには、各自治体に申請書類を提出しなければなりません。

[症状]
 症状は腹痛がもっとも多く、そのほか下痢、発熱、軟便、体重減少、貧血、肛門病変などがみられます。肛門病変には、難治性潰瘍、肛門周囲膿瘍(のうよう)、痔瘻(じろう)、裂肛(れっこう)などがあります。
 腸壁のすべての層に炎症が及ぶため、狭窄(きょうさく)や瘻孔(ろうこう)形成がみられます。狭窄とは腸が狭くなることで、腹痛、腹満、嘔吐(おうと)などの症状が出ます。瘻孔形成とは、本来は交通(つながりのこと)がない小腸と膀胱(ぼうこう)、小腸と皮膚、小腸と大腸などに交通ができてしまうことで、尿とともに腸液が出てきたり、皮膚に小孔(しょうこう:小さい孔〈あな〉)があいて腸液が出てきたりします。
 小腸や肛門の病変のほかにも、関節炎、虹彩(こうさい)炎、肝機能障害などが起こることがあります。

[診断]
 国により診断基準が設けられており、内視鏡検査、病理組織学的検査、肛門病変の有無などで診断します。
 縦走(じゅうそう)潰瘍といって縦に走る不連続の潰瘍と、敷石像と呼ばれる玉砂利を敷きつめたような腸管の変化は、この病気に特徴的な像です。病理組織学的検査では、非乾酪性類上皮細胞肉芽腫(ひかんらくせいるいじょうひさいぼうにくげしゅ)という病変が特徴の一つです。しばしば肛門病変がみられるため、クローン病を疑うときは、肛門病変の有無を確かめることが大切です。
 病変の部位・範囲によって、小腸クローン病、大腸クローン病、小腸大腸クローン病に分けられますが、好発部位は回腸末端部と右側結腸です。

[治療]
 治療の基本は薬物治療です。わが国では栄養療法が効果を上げており、2つの方法があります。1つは高カロリー輸液で、もう1つは成分栄養法です。成分栄養法とは、小腸から吸収される成分でつくられた完全消化態栄養薬を摂取する方法です。
 栄養療法に加え、5-ASA製剤、副腎皮質ステロイド薬、免疫調整薬などによる治療がおこなわれます。
 副腎皮質ステロイド抵抗性の場合や副作用のために減量が必要な場合に、生物学的製剤を使用します。生物学的製剤で寛解導入をおこなった場合、寛解維持でも生物学的製剤を使用します。製剤の種類により、数週間から数カ月に1回、点滴または皮下注射をおこないます。
 大腸が原因の症状のある中等症から重症の患者さんに対して、潰瘍性大腸炎と同様に顆粒球除去療法をおこなうことがあります。
 外科的治療は、狭窄、瘻孔形成、出血などが生じた場合にのみをおこないます。手術により症状は改善するのですが、手術してもしばらくすると他の部位が狭窄したり、別の瘻孔ができたりするなど、複数回の手術が必要なことも珍しくありません。したがって、少しでも消化吸収機能を保つため、狭窄形成や病変部のみの最小限の切除にとどめます。
 ほとんどの例で社会復帰は可能で、悲観することはありません。この病気は若い人に発症し経過が長いので、本人と家族が病気をよく理解し、医師と協力して治療することが大切です。

(執筆・監修:医療法人社団哺育会 桜ヶ丘中央病院 外科部長 榎本 雅之)
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