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インフルエンザに新薬
指摘される問題点も

 毎年流行を繰り返すインフルエンザは、これからが本格的なシーズンだ。2000年から登場した抗インフル薬が早期の解熱など症状の改善、入院や重症化防止などに効果を上げる一方で、薬剤耐性ウイルスの出現などといった問題も指摘されてきた。こうした中で、18年に登場した治療薬「ゾフルーザ」が、一度の内服で治療できることやこれまでのインフルエンザ治療薬=用語説明1=とは作用メカニズムが異なることなどから注目を集めている。ただ、耐性の発生頻度が他の抗インフル薬に比べて高いことが指摘されている。

 ◇目的は症状改善までの時間短縮

診察で喉の腫れを確認

 現在、日本国内ではインフルエンザの感染を迅速に診断できる検査キットが普及し、インフルエンザという診断が付けば早期に抗インフル薬を投与する治療が一般的になっている。インフルエンザ自体は健康な人なら数日から1週間程度で治る。また、治療薬は患者体内でのウイルスの増殖を抑制することで、発熱頭痛、全身倦怠(けんたい)感、せきなどのインフルエンザ症状が消えるまでの時間を短くし 、患者の苦痛を早期に改善する。それが結果的に、小児や高齢者、呼吸器や免疫系に持病のある人を中心に、入院や重症化を防ぐことにつながっている。

 ゾフルーザもこれまでの治療薬と同様に、ウイルスの増殖を抑える。小児で最大1錠、成人は体重に応じて2錠から4錠を一回内服することで治療ができるため、臨床的には使い勝手がいいとされる。臨床効果は、同じ内服剤で5日間、朝夕2回服用が必要なタミフルと同等と報告されている。また、現在使用されている内服剤のタミフルとそのジェネリック剤、吸入剤のイナビルとリレンザ、点滴のラピアクタの5剤とはウイルス増殖を抑制する作用メカニズムが異なることから、既存の5剤に対する耐性ウイルスが出た場合でも有効と考えられている。

菅谷憲夫・神奈川県警友会けいゆう病院小児科医師

 ◇「耐性」への懸念

 ただ、問題もある。他の薬に比べると、価格が高いこともあるが、それ以上に問題なのが、日本感染症学会のインフルエンザ委員会が「ウイルスのアミノ酸変異を惹起(じゃっき)することが知られており、臨床効果への影響、周囲への感染性については今後の検討が必要である」というコメントを発表している点だ。

 感染症学会の委員会で取り上げられた「アミノ酸変異」とはどういうことだろうか。同委員会委員で、神奈川県警友会けいゆう病院(横浜市)感染制御センター長の菅谷憲夫医師は「インフルエンザウイルスに耐性変異を引き起こすこと。ゾフルーザを投与した患者から検出されたインフルエンザウイルスの中から、ゾフルーザの効き目(感受性)を低下させる変異を起こしたものが検出されている。このためインフルエンザ専門家の間では、ゾフルーザの耐性が大きな問題になっている」と語る。

 ◇変異は小児に多く発生

 この変異ウイルスの発生頻度は高く、A型インフルエンザ患者(主にA香港型)の、小児で23.4%、成人で9.7%とされている。医薬品医療機器総合機構の資料によると、変異ウイルスが発生した場合、患者のインフルエンザ症状は、成人では約12時間、小児では約37時間長引くことが報告されている。ただ、変異したウイルスが別の人に感染してインフルエンザを発病させるかどうかは確認できていない。

 菅谷医師は「A香港型インフルエンザ患者で、ゾフルーザを投与した場合、子供の4人に1人、大人の10人に1人の割合で薬が効きにくい、つまり、解熱など症状消失までの時間がかかったり、喉のインフルエンザウイルスがなかなか消えなかったりする患者が出てくることになる。喉のウイルスが長く残るので、この耐性ウイルスが周囲の人に感染するかどうかが懸念される」と話している。

 ◇有効な使用法も

 このような分析を基に菅谷医師は、「私見であるが、迅速診断でA型インフルエンザと診断された場合は、ゾフルーザは使うべきでないと考えている。B型の場合は、耐性がほとんど出ていないので、使うことも可能だろう」と言う。

今年登場した抗インフルエンザ薬のゾフルーザ10ミリグラム錠=塩野義製薬HPより

 ただ、ゾフルーザは使い方によっては非常に重要な薬になる。一つは、既存の抗ウイルス薬と作用メカニズムが異なるため、既存のメカニズムの薬全てに耐性を持つインフルエンザウイルス、例えば、重症化しやすい鳥インフルエンザ=用語説明2=のH5N1やH7N9などのウイルスが出現した場合、治療の切り札になる可能性がある。

 もう一つは、非常に重症な患者に対して既存の抗ウイルス薬と組み合わせて使うことで大きな治療効果が期待できることだ。菅谷医師は「ゾフルーザはタミフルやラピアクタと一緒に使用すると、耐性が出ず、効果も高まる可能性が基礎研究で明らかにされている。小児の脳症や高齢者の肺炎などの重症のインフルエンザ入院患者にはたとえば、ゾフルーザとラピアクタを同時に使用することは有効と考えている」と言う。

 用語説明1 インフルエンザ治療薬
 現在国内で使われている治療薬は内服3種と吸入2種、点滴1種の6種類。発熱後48時間以内の治療が望ましい。効果を出す仕組みは、ゾフルーザだけが異なる。点滴薬は入院が必要とされるような患者に使われるので、多くの患者には残り5種類が使われるのが一般的だ。
 用語説明2 鳥インフルエンザ
 主に鳥類の間で感染するインフルエンザ。しかし、密接に接触している人間にも一部変異した鳥インフルエンザウイルスが感染することがあり、この場合、非常に重症化する事例が多く報告されている。(時事通信社 喜多壮太郎・鈴木豊)

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