一流に学ぶ 角膜治療の第一人者―坪田一男氏

(第6回)角膜が足りない日本=苦肉の策で米から輸入

 ◇困難予想しないのも能力

 「この差はいったい何なのだ」。何とか角膜が必要とされる患者に行き渡るよう頑張ってみたが、らちが明かない。苦肉の策として、米国から角膜を輸入することを思い付いた。

 米国では年間4万5000個ほど角膜が余っていた。それを知っていた坪田氏が米国のアイバンクに協力を頼むと、快諾してくれた。しかし、提供された角膜をどうやって日本に運ぶかまでは考えていなかった。

 「どの航空会社で運ぶか、税関は通過できるのか、空港では誰がピックアップするのか、輸送費はどうするのか…。何もかも一人で解決しなければならなくて。角膜移植手術にかかる時間は1時間なのに、一つひとつこれらの問題を解決していったため、角膜の準備には数十時間かかってしまった」

 海外通販でショッピングをするのとは訳が違う。角膜という臓器を輸入するとなれば、相当な困難が立ちはだかるのは目に見えていたと思われる。それでも、行動に踏み切ったのはなぜだろう。「困難を予測できる力があり過ぎると、新しいことが何一つできなくなってしまう。極論だが、困難を予想できないことは能力の一つと言えるかもしれない」

 角膜移植を受けた患者が見えるようになって喜ぶ。その姿を思い浮かべるだけで自分もうれしくなる。坪田氏が困難を乗り越える原動力はそこにある。

(ジャーナリスト・中山あゆみ)


 用語解説「アイバンク」 亡くなられた人(ドナー)から眼球を提供してもらい、角膜移植が必要な患者にあっせんする機関。各都道府県に設置されているが、当時は専属スタッフがいなかったため、献眼する意思がある人と、角膜移植を待つ患者とをつなぐ仕組みが十分に機能していなかった。近年、移植コーディネーターが採用されるようになり、改革されつつある。。献眼には年齢制限はなく、近眼や老眼でも問題ない。献眼した後は、義眼を装着するため、外見上は全く変化がない状態になる。最寄りのアイバンクに献眼登録できるが、登録していなくとも、その意志を本人または遺族が伝えることで提供ができる。

 用語解説「角膜」 目の表面の黒目の部分を覆う透明な膜で直径約12ミリ、厚さは0.5ミリほどの組織。角膜移植が必要となる病気は、ウイルスや細菌の感染などで角膜の透明性を失ったり、遺伝的に角膜が変形していたり、酸やアルカリによる外傷ややけどなどだ。角膜が濁ったり、変形したりすると、目の中に光を通すことができなくなる。


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