一流に学ぶ 天皇陛下の執刀医―天野篤氏

(第21回) 「日常戻って初めて成功」 =健康寿命への思い強く

 天皇陛下の手術が終わり、記者会見場となった東大講堂に向かうと、あふれんばかりの記者、カメラマンが待ち受けていた。着席するとテーブルにはマイクがずらり。部屋に入った瞬間にカメラのフラッシュが一斉にたかれ、天野氏はまぶしさに一瞬たじろいだ。

天皇陛下の心臓手術を終え、記者会見する(右から)執刀医の天野篤・順天堂大心臓血管外科教授、東大の小野稔・心臓外科教授、永井良三・循環器内科教授(東京都文京区の東大病院)(肩書はいずれも当時)

 医師団は事前の打ち合わせをし、会見ではあえて「手術が無事成功した」という表現を使わないことを確認していた。理由について天野氏は「無事なんて言うと、本当は何かあったんじゃないかと邪推されるかもしれないから」と話す。

 記者からは開口一番「手術は成功したのか」と質問された。天野氏は「予定通り順調に終わりました。陛下が術前に希望されたご公務、日常を取り戻されたときに、初めて手術は成功と言えます」と答えた。常日頃、どんな患者も手術を受けたことを忘れてしまうほど元気になってほしいと考えており、そうした思いから自然に出た言葉だった。

 手術翌日、天野氏は東京・新宿の小田急百貨店の地下食料品売り場で、当直医師への差し入れに海鮮丼を購入しようとレジに並んでいた。数人の買い物客から「先生、ご苦労さまでした」と頭を下げられた。医師や患者には有名な心臓外科医であったが、一夜明けて一般の人にも顔を知られる存在になっていることを知った。

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