女性アスリート健康支援委員会 バセドウ病と泳げる喜びと
インターハイ優勝後、突然の発症
復帰果たし初の五輪決める―星奈津美さん
◇医師の理解、早期復帰の支えに
甲状腺は首の喉仏の下にある、チョウが羽を広げたような形の臓器だ。そこから出るホルモンは体の成長を促し、新陳代謝を活発にする。いわば体を元気にするものだ。バセドウ病は、本来は体を守る免疫システムが異常になり、そのホルモンが過剰に分泌される病気で、体を動かさなくても運動しているような状態になり、心臓の動悸(どうき)が激しくなる、疲れやすくなる、体重が減るなど、全身にさまざまな症状が表れる。
病気のことで頭がいっぱいになった星さんに代わり、「今、水泳をすごく頑張ってタイムも伸びている一番楽しい時期だから、早く症状を落ち着かせて、泳げるようにできないか」と、医師に尋ねてくれたのは母だった。「実は、母は橋本病といって、バセドウ病とは逆に甲状腺の機能が低下する病気の患者だと、この時初めて知りました」。スポーツに理解があった医師は、「ぜひ頑張って」と親子を励ました。甲状腺ホルモンの分泌を抑える薬の服用量を調整し、競技への早期復帰を目指す治療方法を提案してくれた。
薬は確実に効果を上げ、幸い、目立った副作用もなかった。治療開始から1カ月後にはコーチの勧めでプールに戻り、ゆっくりとした水中ウオーキングを始めた。「最初の半年は2週間に1回ほど病院に行き、血液検査で毎回4本分も採血されて、いつか血がなくなるんじゃないかと思った」と、冗談交じりに振り返る日々には不安もあったに違いない。だが、激しい運動を控えて治療のステップを踏み、約2カ月半後に本格的な練習を再開、復帰へと突き進んだ。
◇一気にベスト縮め、北京代表切符
07年8月、高校2年で迎えた夏のインターハイの200メートルバタフライで、星さんは連覇を果たした。1年の時の記録を0秒87上回る2分10秒15の好記録。「再び泳ぎ始めた頃は、インターハイの優勝はまだ難しいかなと思っていた。それまで泳げなかったからこそ、練習に対する意識と姿勢が貪欲になっていたのが、よかったと思います」。泳げる喜びが再び、体に満ちあふれていた。
「オリンピックが決まった瞬間は、実感がなかったですね。決勝は大先輩で目標だった中西さんについていって2位に入ったので、夢のようだったのは覚えています」。突然の病気を乗り越え、見事な成長を遂げた17歳は、毎日の服薬と、2カ月に1回になった定期検査を続けて、初めての五輪に挑んだ。(水口郁雄)
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(2018/11/17 06:00)