「医」の最前線 緩和ケアが延ばす命

迫る死への苦悩と向き合う
スピリチュアルペインを知っていますか-緩和ケア〔8〕

 皆さんはスピリチュアルペインをご存じでしょうか。スピリチュアルというと、日本での一般的なイメージは、亡くなった人の魂を呼び寄せて別の誰かを介して言葉を伝えるという口寄せの印象が強いかもしれません。

ここでのスピリチュアルは、日本でのいわゆる[「スピリチュアル」とは異なります

ここでのスピリチュアルは、日本でのいわゆる[「スピリチュアル」とは異なります

 けれどもそのような降霊術と、ここで言うスピリチュアルは異なります。どうしても日本のスピリチュアルのイメージが強いですから、皆さんもその言葉を聞くと、少し怪しげな印象を受けるかもしれません。

 ◇「存在」に関するつらさ

 世界保健機関(WHO)の緩和ケアの定義には「緩和ケアとは、生命を脅かす疾患に関係する問題に直面している患者とその家族の痛みやその他の身体的・心理社会的・スピリチュアルな問題を早期に発見し、的確に評価を行い対応することで、 苦痛を予防し和らげることを通して生活の質を向上させるアプローチである」とスピリチュアルが普通に記載されています。

 では、このスピリチュアルな問題とは何なのでしょうか。

 日本人の「終末期がん患者のスピリチュアルペイン」概念分析という日本における終末期がん患者のスピリチュアルペインを調べた論文によると、次のようにまとめられています。

存在の意味が揺らぐスピリチュアルペイン。足腰が弱って身の回りのことができなくなると、一般に強くなります

存在の意味が揺らぐスピリチュアルペイン。足腰が弱って身の回りのことができなくなると、一般に強くなります

 「終末期がん患者が、生命の危機の恐怖や病気の進行による身体機能の衰えに伴い無力感を抱くことによって、生きること・存在すること・苦悩することの意味、死への不安、尊厳の喪失、罪責意識、現実の自己への悲嘆、関係性の喪失、超越的存在への希求等について問い続けざるを得ない苦痛」

 ごく簡単に言えば、「存在」に関するつらさとまとめることができるでしょう。

 ◇薬剤で緩和が難しい苦痛

 重い病気になると、自分のことを自分で決めて行動する「自律」が損なわれます。これが、「人の世話になってなぜこのように生きねばならないのか」という苦悩と結びつくことは想像に難くありません。

 死を意識するようになると、これまでの人生は良かったのか、あるいは正しかったのか。そして死後にはどのようになるのか。罰を受けるような来世が待っているようなことはあるのかなどと個人差はあるものの、さまざまなことを考え思い悩むということは、しばしば現場で認められるものです。


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