「医」の最前線 AIに活路、横須賀共済病院の「今」

〔第1回〕AI活用で働き方改革
患者に寄り添う医療を目指す

 人工知能(AI)の医療分野での活用が進んでいる。学習したことを確実に処理することができ、人為的なミスの心配もないAIは、多忙な医療現場の救世主になるのではと期待されている。横須賀共済病院は、病院の記録業務にAIを導入して職員の負担を軽減し、より患者に寄り添うことのできる医療を目指している。旧海軍の病院として発足し、三浦半島の中核都市である神奈川県横須賀市で100年以上の歴史をもつ同病院で、なぜAIが開発されるに至ったのか、病院改革の道のりを追った。

 ◇カルテを音声入力

 横須賀共済病院の外科病棟。ピンマイクをつけた医師が病棟回診にまわり、ベッドサイドで入院患者と会話する。「Yさん、お変わりないですか」「Yさんは膵頭十二指腸切除術後3日目の患者さんです。今日で酸素点滴モニターを外します」「看護師さん、安静介助をお願いします」

カルテを音声入力

カルテを音声入力

 医師が話した言葉は次々とAIが解析し、自動的に文章として記録される。この間、医師はカルテに目を落とすことなく、ずっと患者の顔をみて話しかける。医師がカルテに何を書き込んだのか気になる患者も多いが、音声入力の場合、情報を患者と共有することにもつながる。

 AI開発を主導した長堀薫院長は「滑舌がよくないと、AIの解析がうまくいかないので、医師たちはゆっくり、はっきり話すようになりました。AIにわかりやすい言葉は、患者さんにとってもわかりやすいんです」といい、副次的な効果もあるようだ。

 横須賀共済病院は現在、外科病棟の40ベッドでパイロットスタディーが進行中。近くAIに音声を伝えるピンマイクを現在の3個から80個に増やし、より多くの職員に使ってもらう。実用化は1年~1年半後の予定だ。

 長堀院長は「病院で扱う個人情報はセキュリティーを厳重にする必要がありますから、そこで時間がかかっています。グズグズしていると、海外の企業に先を越されてしまうので、焦っています。外来にも1年以内にはパイロットスタディーを導入したい」と話す。

患者、スタッフにやさしい病院へ

患者、スタッフにやさしい病院へ

 横須賀共済病院は、働き方改革の究極の解決策としてAIの導入による業務軽減を考え、株式会社「9DW」(東京都港区)の協力を得て「AIを用いた診療時記録の自動入力化、インフォームドコンセント時の双方向コミュニケーションシステム」の開発に取り組み、実証実験を進めていた。

 実証実験を行っていた矢先の2018年9月、この事業は内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第2期のAIホスピタルによる高度診断・治療システムの研究開発課題に採択された。

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「医」の最前線 AIに活路、横須賀共済病院の「今」