「医」の最前線 AIに活路、横須賀共済病院の「今」

〔第1回〕AI活用で働き方改革
患者に寄り添う医療を目指す

 ◇書類の書き込みで多忙

 医師や看護師が忙しそうで、話を聞いてもらえないという声がよく聞かれるが、医師や看護師は治療やケアで患者に接している時間以外に、患者の目に触れない仕事が山ほどある。

 横須賀共済病院が病棟看護師600人の業務内容を調査した結果、勤務時間の4割は患者と接する以外の仕事で、その75%は記録であることがわかった。さらに時間外勤務では患者と接していない時間が約8割に達した。

横須賀共済病院の病棟看護婦における業務別の時間割合

 「治療への同意書など現場での書類は増える一方で、本来の看護業務以外のところで看護師の仕事が忙しくなっていたんです」

 AIを記録業務に導入すると、病棟の看護師で年間約7,000時間、外来の医師の場合は10,500時間が削減できると試算した。

 ◇人へのシフトは限界

 医師の負担を軽減するために、看護師や他の医療スタッフが仕事を補助する病院は増えているが、長堀院長は「人から人へのタスクシフトには限界がある」と話す。いま現在、横須賀共済病院が人手不足というわけではない。研修医、看護師、薬剤師、検査技師などあらゆる職種で、募集の数倍の応募があるという。

 しかし、地域には医療者不足で病棟を閉鎖せざるを得ない病院がすでにある。「転院先の病院がなくなると、うちの急性期の病院としての機能も維持できなくなってしまう。地域全体での医療を考えなければいけません」

書類の書き込みで多忙

 ◇インフォームドコンセントにも活用

 現在、パイロットスタディーが行われているのは病棟での記録だが、今後は外来での電子カルテの音声入力や、患者へのインフォームドコンセントにも展開していく予定だ。

 電子カルテの導入後は、医師がパソコンの画面ばかり見ていて、患者の顔すら見ないという声が多かった。AIによる音声入力が可能になれば、医師が患者を診察しながら内容を話すだけで、自動的にカルテの記録が完了する。パソコンのキーボードを操作する必要がなくなるので、そのぶんじっくり患者と向き合う余裕ができてくる。

 検査や治療の内容を、かみ砕いて丁寧に説明するのが得意な医師もいるが、専門用語をそのまま使ってしまう医師もいる。患者の理解力もいろいろだ。十分に理解できていなくて、質問すらできない患者も多い。

 そこで、横須賀共済病院が開発しているのが、患者の表情をAIが解析して、説明が理解できているかどうかを判断するシステムだ。「共同開発している9DWは、画像認識技術もしっかりもっているので、技術的には可能です」と長堀院長。

 ◇日本の病院全体を視野に

 AIの導入によって書類業務が軽減され、働き方改革が進めば、職員の労働環境は改善され、労働力不足も解消する。時間的にゆとりができれば、患者への接し方も改善され、患者満足度も上がる。AIの導入は一石三鳥を狙えるほど大きな可能性を秘めている。

 「人間がやらなくてよいことはAIに任せ、人は人でなければできないことだけに集中する。AIの導入が患者、スタッフに優しい病院づくりに役立つことがわかれば、日本の他の病院でも導入が進むはず」と長堀院長は期待する。AIの導入によって病院の風景が変わる日も近いかもしれない。(医療ジャーナリスト・中山あゆみ)

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