「医」の最前線 感染症・流行通信~歴史地理で読み解く最近の感染症事情~

新型コロナ・夏の流行が健康上の脅威 東京医科大客員教授・濱田篤郎【第8回】

 新型コロナが世界的拡大を起こしてから4年以上が経過し、夏と冬の流行が繰り返されています。現在は2024年夏の流行の真最中ですが、なぜ、同じ呼吸器感染症インフルエンザが冬だけなのに、新型コロナは夏と冬に拡大するのでしょうか。実は、二つの季節にピークとなる呼吸器感染症は珍しく、それ故に、新型コロナは今も健康上の脅威になっているのです。

 ◇8月にピーク

 日本では6月末から新型コロナの患者数増加が顕著になり、8月に入りピークを迎えています。流行している主なウイルス株はKP.3というオミクロン株の派生型で、病原性や感染力に大きな変化はありませんが、免疫逃避を起こしやすいとされています。8月中旬の時点で、患者数は多いものの、重症化するのは高齢者など一部に限られており、医療の逼迫(ひっぱく)も起きていないのが現状です。

新型コロナウイルス感染症の定点当たり報告数の推移(厚労省ホームページより)

 この時期の流行は日本だけでなく、欧米諸国でも見られており、パリ五輪でも選手の中に患者が発生しました。また、現在冬を迎えている南半球のオーストラリアやニュージーランドでも患者数の増加が見られています。

 新型コロナ発生後の4年以上にわたる知見から、温帯地域では新型コロナが夏と冬に2回拡大することが明らかになっており、24年夏も事前に予測されていました。一方で、夏と冬の二つの季節に拡大する呼吸器感染症は珍しく、この現象そのものが異常な状況と言えるのです。

 ◇呼吸器感染症の季節性

 インフルエンザに代表されるように、呼吸器感染症の多くは冬に流行が起こります。その病原体はウイルスが多く、飛沫(ひまつ)や接触による感染で拡大するため、人間が過密になる環境では広がりやすくなります。人間の行動からすると、寒い冬の季節は屋内で過ごす時間が長く、過密な環境が形成されやすい状況にあります。ウイルス側にとっても、気温の低い環境では生存期間が長くなり、より広がりやすくなるのです。

 一方、手足口病ヘルパンギーナは夏風邪と呼ばれるように、夏に拡大する呼吸器感染症です。病原体はエコーウイルスやコクサッキーウイルスで、こちらも飛沫や接触による感染で拡大します。こうした夏風邪は子どもの間で流行することが多く、大人がかかることもありますが、免疫があるため症状は軽く済みます。

 夏はウイルスが拡大しにくい季節ですが、患者から至近距離で飛沫を浴びたり、汚染された玩具に触れたりして感染することが多いようです。また、夏風邪のウイルスは、気温の上昇に抵抗力のあることも広がりやすい原因と考えられています。これに加えて、最近は暑い夏を過ごすため、空調の利いた屋内にとどまる時間が増えており、これも夏風邪の拡大する要因になっています。

 このように、呼吸器感染症の流行には夏か冬の季節性がありますが、両方の季節に拡大するのは新型コロナ以外に見当たりません。

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