「医」の最前線 感染症・流行通信~歴史地理で読み解く最近の感染症事情~

新型コロナ・夏の流行が健康上の脅威 東京医科大客員教授・濱田篤郎【第8回】

 ◇本来は冬に流行

 コロナウイルスの中には、今回の新型コロナを起こした種類以外に、冬の風邪の原因となるウイルスがあります。新型コロナウイルスについても、気温の低い環境では生存期間が長くなるという報告があり、本来は冬に流行すると考えられています。

 では、なぜ新型コロナウイルスが夏にも拡大するのでしょうか。

 原因の一つは、夏風邪で説明したように、空調の利いた屋内にとどまる時間が長くなり、過密な環境になるためと考えます。新型コロナウイルスの感染力は強いので、夏でも過密な環境になると広がってしまうのです。さらに、ウイルスの生存期間も空調で気温が低下した環境では長くなるでしょう。

 そして、もう一つ重要な点は、私たちの免疫状態だと思います。夏風邪の場合、主にかかるのは免疫の弱い子どもが中心ですが、新型コロナの場合は、大人も子どももそのような状態にあります。このウイルスは19年に初めて拡大した病原体で、それまでに私たちは免疫を全く持っていませんでした。しかし、流行が拡大してから、多くの人々が感染やワクチン接種で免疫を獲得しましたが、私たちの免疫はまだ弱い状態にあります。

 ◇インフルエンザとの比較

 免疫の強弱について、新型コロナインフルエンザで比較して説明しましょう。

 インフルエンザの流行は、北半球と南半球の間を患者が行き来することで起こります。まず、北半球の冬(12~3月)の終わりごろに感染した人がウイルスを南半球に運び、それが冬(6~9月)の流行を起こします。さらに、南半球の冬の終わりごろに感染した人により北半球にウイルスが運ばれ、それが次の流行になるのです。

猛暑の中、日傘を差して歩く人たちの中にマスク姿も=7月、東京・銀座

猛暑の中、日傘を差して歩く人たちの中にマスク姿も=7月、東京・銀座

 ここで大事なのは「冬の終わりごろにかかった人が運ぶ」という点で、あまり早すぎると、持ち込まれた地域が真夏のため、はやらないのです。インフルエンザは古くからの感染症で、多くの人々が一定の免疫を獲得しており、流行に適さない夏に持ち込まれても拡大することはありません。

 一方、新型コロナの場合は、一定の免疫を持つ人がまだ少ないため、夏に持ち込まれても、そのまま拡大してしまうのです。日本で24年夏の流行を起こしたウイルスが南半球から持ち込まれたのか、欧米からかは不明ですが、こうした理由で夏の流行が起きていると考えます。

 ◇夏の流行が消えるとき

 このように考えると、新型コロナが夏の流行を繰り返している間は、インフルエンザと同じ感染症になったとは言えません。免疫が弱いため、新たな変異株の出現などで大流行を起こす可能性もあり、健康上の脅威は依然として続いているのです。

 今後、私たちが感染やワクチン接種により、新型コロナに対する一定の免疫を維持できる状況に達したときに、夏の流行は消えていくと思います。そして、インフルエンザと同様、冬だけの感染症になっていくでしょう。

 それまでは、夏と冬のどちらの季節も、換気、手洗い、マスク着用といった対策を講じながら、予防に努める必要があるのです。(了)

濱田客員教授

濱田客員教授


濱田 篤郎(はまだ・あつお)
 東京医科大学病院渡航者医療センター客員教授
 1981年東京慈恵会医科大学卒業後、米国Case Western Reserve大学留学。東京慈恵会医科大で熱帯医学教室講師を経て2004年海外勤務健康管理センター所長代理。10年東京医科大学病院渡航者医療センター教授。24年4月より現職。渡航医学に精通し、海外渡航者の健康や感染症史に関する著書多数。新著は「パンデミックを生き抜く 中世ペストに学ぶ新型コロナ対策」(朝日新聞出版)。

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