こちら診察室 依存症と向き合う

第4回 日本にカジノで喫緊の課題に 
ギャンブル依存症の対策・治療 久里浜医療センターの「今」

 ◇妻に隠れて

 アルバイト代でも足りなくなり、奨学金やカードローンなどあらゆる手段を使ってお金を工面しましたが、留年して奨学金が停止され、21歳で大学を中退。卒業できなかった負い目から、二度とパチンコをしないと決めました。しかし1カ月後にたまたま通りかかったパチンコ屋にふらふらと入ってしまいました。

パチンコ店

 嫌なこともパチンコに行くと忘れられました。28歳、ヤミ金融で借りた100万円が返せず、親に泣きついて支払ってもらいました。33歳で結婚。しかし、妻にパチンコのことは打ち明けられず、隠れて仕事帰りにパチンコに通いました。

 結婚して半年後、普段は吸わないたばこ臭からパチンコに行っていること、借金が300万円まで膨れていることがばれました。さらに、勤めていた会社の金を横領し、懲戒解雇。妻から厳しい叱責を受け、行方不明になりましたが、手持ちのお金が尽きた1週間後に自宅に戻り、妻とともに当院の受診につながりました。

 ◇薬物療法を併用ケースも

 ギャンブル依存症は現在、「ギャンブル障害」という疾患名で分類されています。アメリカ精神医学会は、紹介した30代男性のようなコントロール障害、負けの深追い、借金、うそなどを診断基準として挙げています。

 これまで国内外でさまざまな治療法が試みられてきましたが、ギャンブル障害には、アルコール依存症や薬物依存症と同様に認知行動療法が有効とされます。

 認知行動療法は、ギャンブル障害の問題行動にみられる、「不健康で不合理で後ろ向きの考え」を明らかにし、それを「健康的、合理的、前向きな考え」に置き換えることに焦点を当てる治療法です。また、うつ病や注意欠如・多動性障害(ADHD)等の精神疾患を合併している場合は、症状に応じて抗うつ薬や気分安定薬などの薬物療法も行います。

ギャンブル依存症の支援施設「グレイス・ロード甲斐センター」(山梨県甲斐市)=本文とは関係ありません

 ギャンブラーズ・アノニマスのような、ギャンブル問題を抱えている当事者と話し合う自助グループへの参加や家族に対する家族療法も有効とされます。家族療法は患者に対する家族の接し方を変えることなどにより、回復を助けるものです。

 ◇借金の肩代わりはダメ

 ギャンブル障害の進行過程で借金が発覚した場合、家族は「早く返済しなくては」「これでもう反省してくれるだろう」などといった気持ちから、借金を肩代わりして問題を解決しようとします。

 しかし、しばらくすると本人が借金を繰り返して悪循環に陥るケースが多いです。借金の肩代わりは、回復の機会を奪いかねません。治療を進めるためには、家族は借金の肩代わりをしない方がよいでしょう。

 ギャンブル障害の治療は、医学的問題だけでなく、借金、就労などの生活支援も必要な場合が多いため、それぞれのケースに応じて弁護士や司法書士、福祉、ハローワークなどの関係機関と連携をとることが推奨されます。

松崎尊信氏

 ギャンブル依存症からの回復には、(1)衝動をコントロールする(2)経済的な問題を整理し、家族関係を修復する(3)ギャンブル以外の趣味や家族との時間を持つなどバランスのよい生活を送る-などが重要です。(久里浜医療センター精神科医長・ギャンブル・ゲーム依存担当 松崎尊信)

松崎尊信氏(まつざき・たかのぶ)
 九州大学医学部卒。厚生労働省精神・障害保健課依存症対策専門官などを経て2016年久里浜医療センター。17年厚生労働省健康課参与(併任)。
 精神保健指定医、日本精神神経学会認定専門医、日本医師会認定産業医

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