こちら診察室 タンパク質にまつわる栄養の話

何をどれくらい食べる?
~子どもの場合は~ 第5回

 これまで成人や高齢者と大人世代のタンパク質摂取について解説してきましたが、今回は「子ども」に目を向けてみたいと思います。成長著しい子どもにとって、必要な栄養素を過不足なく取ることがどれだけ重要か、多くの方はお分かりだと思います。一方で、核家族化(祖父母と一緒に暮らさない)、夫婦共働き家庭の増加、物価の高騰など子どもを取り巻く環境は大きく変化し、食生活にも影響しています。そこでまずは、子ども世代の食生活の問題から考えていきましょう。

子どもの学力は朝食と関係する!?

 ◇食生活に関する問題

 現在、子どもの食生活を巡り、偏った栄養摂取、朝食の欠食、痩せ過ぎや肥満など、さまざまな問題が挙げられています。特に、こうした問題が深刻化している子どもたちの将来の健康への影響が懸念されています。

 ここで一つ、有名な図を紹介します。文部科学省が毎年行っている「全国学力・学習状況調査」の2021度の結果より、朝食摂取と学力の関係をグラフにしました。小学校6年生と中学校3年生の国語と算数・数学の正答率と、朝食を食べているかどうかの関係を示しています。注目すべき点は、どちらの科目でも、朝食を毎日食べている子どもの方が朝食を全く食べていない子どもより平均正答率が高い傾向にあることです。

 ただし、勘違いしてはいけないのは「毎日朝食を食べる=成績が上がる」というわけではありません。「毎日朝食を食べたから試験の点数がアップするはずだ」と思い込んでしまうのは早とちりです。この図の結果から言えるのは、毎日朝食を食べる習慣がある子どもの方が、日々学習する習慣も身に付いているのかもしれないということです。

 ◇子ども任せでは難しい

 ところで、朝食を食べる習慣も、学習する習慣も、子どもに任せておけば勝手に身に付くものでしょうか? これは子どもの年齢にもよると思いますが、子ども任せでは難しい面も多いでしょう。特に、食事に関しては材料と準備が必要ですので、どうしても保護者の手が必要になります。近年、子どもの食生活に強く影響する親世代についても、食や栄養に関する知識不足や料理技術の低下、食への興味や関心の低さ、子どもと食卓を共にすることのできない状況など多くの問題が指摘されています。日本で推進されている食育活動では、子どもの食生活改善のために親世代へのアプローチを試みているケースがたくさんあります。心当たりのある方は、こういった地元で開催される活動に参加してみてください。

子どもにとって必要なタンパク質の量

 ◇世代別のタンパク質摂取量

 改めてタンパク質に話を戻します。まず、子どもに必要なタンパク質摂取量について確認してみます。表に日本人の「食事摂取基準(2020年版)」からタンパク質摂取量の推奨量(ほとんどの人が不足しないための量)を示しました。子どもの世代ごとに色を付けてみましたので、世代別に解説します。

 ▽緑色:1~5歳の乳幼児期

 1歳半くらいまではミルク+離乳食、1歳半以降は幼児食を食べます。

 この時期は、好き嫌いや機嫌の善しあしで子どもの食欲にむらがあったり、1日の活動量によって食べる量が左右されたり、大人が想定していない時間に空腹を訴えたりします。決まった食事の量を確保できない、または食べ過ぎかもしれないなどと悩んでしまうことも多いでしょう。しかし、心配しないでください。この時期の子どもの中には食べる量が安定しないケースもよくあります。1食ごとに一喜一憂するのではなく、数日単位で振り返ればOKですし、体重や身長の増加が順調であれば問題はありません。タンパク質源としては、理想は毎食必ず肉や魚を食べてほしいところですが、思い通りにいかないこともあるでしょう。そこで、牛乳や乳製品をおやつにとり入れたり、サラダにゆで卵のトッピングや、おみそ汁に豆腐を追加したりするなど主菜だけでなく、副菜にもタンパク質源を少しだけ加えておくと、タンパク質不足の予防ができますよ。

 ▽黄色:男児6~11歳・女児6~9歳の学童期

 男女共に思春期に入る前、小学校に通う時期が該当します。乳幼児期に比べて、体と共に心も成長していく時期です。

 この時期の食事で欠かせないのが学校給食の存在ではないでしょうか。学校給食では、文部科学省が設定した学校給食実施基準を基に、各栄養素について食事摂取基準で定められた量の3分の1は満たすような献立が提供されています。そのため、タンパク質についても、肉や魚、卵、大豆製品などが工夫を施されてお皿に並べられ、さらに牛乳が付くスタイルで提供されているのです。この時期の子どもにとっては、給食を元気においしく、残さずに食べられるように心と体をコントロールしてあげることが重要ですね。

 ▽ピンク色:男子12~17歳・女子10~17歳の思春期

 男女共に思春期の時期です。思春期の特徴としては、第2発育急進期(スパート)と呼ばれる、急激に身長が伸びる時期であることが挙げられます。

 スパートの時期には個人差がありますが、女子では10~11歳ごろ、男子では12~13歳ごろと言われています。つまり、男子より女子の方が早くスパートが訪れるのです。このスパート以降、思春期が到来し、性成熟が始まります。身長が伸び、体重が増えるだけではなく、性ホルモンの分泌や生殖器の発育など性差を生じていく非常に大切な時期となります。

 そのため、この時期はエネルギーや栄養素の必要性が増し、タンパク質に関しても男子の場合は15~17歳から、女子の場合は12~14歳からが一生の中で一番多くの量のタンパク質を必要とする時期となっています。体の成長を妨げないように、十分な栄養摂取を心掛けていただきたいのです。

 以上のように、一口に子ども世代と言っても、世代によって身体的・生理的・心理的特徴が異なり、同時に栄養面で注意しなければならないことも異なります。そこで、次回は各世代の子どもにおける食生活上の課題について深堀りしてみたいと思います。(了)

 今村佳代子(いまむら・かよこ)
 管理栄養士・公認スポーツ栄養士。鹿児島純心大学・看護栄養学部健康栄養学科准教授。日本女子大学家政学部食物学科卒業。病院勤務を経て同大学大学院修士課程修了。現在は大学で管理栄養士養成に従事する傍ら、高校生・大学生アスリートへ栄養サポートを実施する。Webサイト「アスレシピ(日刊スポーツ新聞社)」に『KAGOSHIMA×食』グループでコラム・レシピを執筆。


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