こちら診察室 依存症と向き合う

第3回 薬物依存は「健康問題」 
処罰感情は治療のさまたげ 久里浜医療センターの「今」

 「薬物依存」と聞くと、どのようなイメージが浮かぶでしょうか。街中やポスターで見かける「ダメ。ゼッタイ」というキャッチフレーズや有名人逮捕のスキャンダラスな報道、「薬物に溺れるのは自分の弱さだ」という自己責任論でしょうか。

 ◇50人に1人が経験

 筆者はしばしば、中高生向けの薬物乱用防止教室の講演を依頼され、話をする機会がありますが、その際に耳にする先生らのセリフは次のようなものです。「まさかうちの生徒、子どもたちが薬物を使うとは思わないが…」という前置きです。

 実際、先生がそう考えるのも無理はないかもしれません。薬物使用は「あってはならないこと」。テレビやネットで見るどこか遠い世界の出来事であり、目の前にいる子どもたちが薬物使用に至る事態は無いと思っているのでしょう。

 薬物の使用経験は極めてまれな、どこか特別な世界の出来事なのでしょうか。2017年の「薬物使用に関する全国住民調査」(1)によれば、わが国の薬物使用の生涯経験率(大麻有機溶剤、覚せい剤、コカイン、危険ドラッグ、MDMAのいずれかの薬物を一度でも使用した経験がある者が占める割合)で2.3%と報告されています。これは50人に1人の割合です。

 ◇市販薬でも依存・乱用

 もちろん、これら薬物使用の経験者が全て、摂取コントロールができない「依存」状態を示すものではありませんが、使用経験者は一定数存在します。

本来目的以外医に使用されていた市販薬(2症例以上に認められた薬剤)=医薬品・医療用機器等安全情報No.365より


 違法薬物の経験は極めてまれではありませんし、「処方薬」や「市販薬」の乱用、依存も特別な世界の出来事ではないと言えるでしょう。

 ◇断るスキル

 日常の中で使用を経験したり、依存に陥ったりすることがあり得る薬物ですが、特に違法薬物は使用しないに越したことはありません。発覚すれば、取り締まりや逮捕という大きな不利益を被ります。

 では、薬物使用や依存を防ぐにはどうすればよいでしょうか。

 「ダメ。ゼッタイ」と伝える一方で、まずは薬物使用の機会が遠い世界の事柄でなく、身近にあるものと捉える必要があります。その上で、仲間(ピア)との交わりの中で薬物使用のプレッシャーが生じた時に、それを断る具体的なスキルを伝えておくことです。対応策を知っていれば、使用を勧められる場面に遭遇した際、現実的な対応が取りやすくなります。

 具体的には、(1)その場からとにかく逃げる(2)はっきり「使わない」と言う(3)「やらない」とただ繰り返す―などの対応は、本意でない使用から身を守るだけでなく、適切な自己主張能力の養成にも役立ちます。

  • 1
  • 2

こちら診察室 依存症と向き合う