こちら診察室 依存症と向き合う

第3回 薬物依存は「健康問題」 
処罰感情は治療のさまたげ 久里浜医療センターの「今」

 ◇心につらさを抱えた時

 このように、強い心を持ってピアプレッシャーに立ち向かえば薬物使用の可能性を低くできるかもしれませんが、これだけでは十分でありません。

薬物依存の回復支援施設「川崎ダルク」の入所者。中央は岡崎重人施設長=本文とは関係ありません

 ライフステージの中でうまく立ち回れない経験をしない人はいないでしょう。(1)毎日がとにかくつらい(2)誰も助けてくれる人がいない(3)過去の強烈な記憶によって呼び起こされる罪悪感や恥の感覚(4)自分は価値のない存在-といったことを感じる経験は誰にでもあります。

 このような、自分の存在を破壊しかねない絶望的な気持ちになった時、それを確実に救ってくれるものがあって、それを魅力的な人物に勧められたり、広告塔となる情報に触れたりしても「ダメ。ゼッタイ」を貫いて、使わない選択を常に取れるでしょうか。

 ◇誰にも言えない

 精神作用性のある薬物は直接脳の回路に働きかけ、おそらくかなりの確率でつらい気持ちを変えてくれます。薬物使用は、必死の思いで自分を守る方法とも言えます。心の重圧をひとまず抑え、自分が壊れてしまうのを防いで生き延びるために、薬物という確実な選択肢を取らざるを得ない状況が全くないとは言い切れません。

 しかし、日頃から「ダメ。ゼッタイ」のメッセージが刷り込まれていると、違法薬物を使用しながら生き延びている現状、耐えられないほどつらい心情を誰にも言えない状況に陥ってしまいます。

 ◇つらさを受け止める

 薬物使用を話したくても、「使用はあり得ないこと」ですから、もし打ち明ければ非難され、否定され、諭され、使用中止をただただ懇願されます。周囲に理解されないためつらさがさらに増し、もっと薬物を使用したくなることさえあります。

 薬物使用や依存は「健康問題」です。

薬物依存の回復支援施設「川崎ダルク」=本文とは関係ありません

 薬物を使用したくなるような心の状態に関心を向けるべきで、どのような支援が心の負担を減らせるかについて、メンタルヘルスの観点を持った介入が必要となっています。

 50人に1人が薬物を経験しています。「薬物をゼッタイに使用しないこと」が前提ではなく、処罰よりも薬物使用の背景にあるつらさを受け止め、共に対処法を考えていくことがより現実的なニーズです。

 ◇健康回復へ協働

 自助グループや民間施設、相談・医療機関でのサポートは、それぞれのアプローチで患者本人のつらさに向き合い、支援を行っています。

 苦しい状況に立たされている人が「薬物を使いたくなるくらいつらかった」という気持ちを処罰の懸念なしに表現できるような関わり方が大切です。そんな関わり方を広げていくことは、社会全体で薬物使用、依存という健康問題の回復に向けて協働していく取り組みとなり得ます。(久里浜医療センター精神科医 湯本洋介)

湯本洋介氏


(1)出典
嶋根卓也、他:薬物使用に関する全国住民調査(2017年). 平成29年度厚生労働科学研究費補助金医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス政策研究事業「薬物乱用・依存状況等のモニタリング調査と薬物依存症者・家族に対する回復支援に関する研究(研究代表者:嶋根 卓也)」分担研究報告書,pp7-148,2018.

湯本洋介氏(ゆもと・ようすけ)
 福井大学医学部卒。東京都立松沢病院で初期臨床研修、精神科専門研修を修了。松沢病院に勤務時より、依存症医療に携わる。
 2014年年より独立行政法人国立病院機構久里浜医療センターでアルコール依存症を中心に診療。新たな治療の減酒外来を担当している。

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