健康寿命の考えかた 家庭の医学

 健康寿命とは、2000年に世界保健機関(WHO)が「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」と定義しました。WHOの定義によれば、日本は健康寿命も世界一です。しかしながら、平均寿命から健康寿命を引いた年数は男女とも約10年はあり、この短縮がわが国の健康戦略の柱となっています(2015年3月閣議決定)。このため、健康寿命を阻害する脳とこころ、難病、感染症などの対策、再生医療などの振興が研究の柱に据えられています。

●60歳時の健康寿命 上位10カ国(2019年)
男 性女 性
ランク国  名健康寿命
(年)
国 名健康寿命
(年)
1日本78.8日本81.9
スイス78.8韓国81.2
シンガポール78.8シンガポール81.1
イスラエル78.7フランス80.8
アイスランド78.6スペイン80.3
フランス78.5スイス80.2
スウェーデン78.3ドイツ79.9
ペルー78.3キプロス79.9
オーストラリア78.3イスラエル79.9
10カナダ78.2イタリア79.8
WHO HALEをもとに作成


 いっぽう、2000年以降、老化により急に生活が不自由になるわけではなく、しだいに衰えていく過程を重視した考えかたが、世界的に注目されてきました。強健からやや虚弱になり、虚弱を経て依存、要介護になるという考えかたです。
 特に虚弱段階での予防が有効で重要であることから、フレイル(虚弱)の予防が、フランス、カナダ、米国での健康戦略となり、日本でも2016年からフレイル(虚弱)予防の取り組みが始まりました。
 フレイルの定義は、「加齢や慢性疾患の積み重なりによって脆弱でストレスによって、生活自立が損なわれやすい状態」とされています。

 わかりやすくいうと、病気で入院し、治療を終えて退院後に元気でふつうに生活できればフレイルではありません。しかし、85歳以上では、退院時に病気は治っても、一人暮らしができない人が過半数で、これをフレイルと呼びます。
※ADL:日常生活動作(病気をきっかけに生活機能が低下しやすい参照)

 フレイルは、歩行速度低下(<1m/秒)、握力低下(<26kg:男性、<17kg:女性)、易疲労感(自己申告)、活力低下、体重減少(年間 >5kg)などで評価されますが、一般にはわかりにくいため、次のチェック表を用いるとよいでしょう。

 わが国では、高齢者の10~15%がフレイルで、13%が要介護状態となっています。75歳以上の健康増進のため、フレイル予防の健康診断が2016年にはじまりました。

(執筆・監修:地方独立行政法人 東京都健康長寿医療センター 理事長/国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター 理事長特任補佐 鳥羽 研二)
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