病気をきっかけに生活機能が低下しやすい 家庭の医学

 「肺炎になって元気だったおじいさんが寝たきりになった」などというエピソードはいまでも少なくありません。肺炎になっても寝たきりにしない医療が高齢者医療の標準であるべきで、このような学問を「老年医学」といいます。
 では、生活機能とはなんでしょうか。要素別に以下のようになります。
 ○基本的な日常生活活動度(基本的ADL〈activities of daily living〉)
 ○独居可能な生活手段を完遂できる(手段的ADL)
 ○認知機能
 ○こころの元気さ(うつ、意欲)
 ○近所、親戚、友人との交流
 順に説明していきます。

①基本的な日常生活活動度(基本的ADL)
 歩行、階段の上り下り、椅子への移乗、トイレ歩行といった移動系の要素と、食事、排尿、排便、入浴、着替え(更衣)、洗面・歯ブラシ・ひげそり・化粧(整容)といったセルフケアの要素からなります。

 最低限の生活自立は介護保険の利用が必要かどうかの重要な分岐点で、入浴とトイレの両者が自立していない場合は介護保険の適用となります。2項目以上介助が必要な場合は一人暮らしが困難です。

②独居可能な生活手段を完遂できる(手段的ADL)
 移動やセルフケアができても、一人暮らしはそれで十分ではありません。
 バスなどの利用、買い物、金銭管理、料理、掃除、洗濯、電話の利用、服薬管理ができないと病院への通院や、健康管理、清潔維持、家計の維持などが困難になります。福岡県の独居者の調査では、これらがほぼできている人だけが、独居を継続していました。


③認知機能
 脳は、記憶、判断、図形認識、言語認識、音声認識などを部位によって分担・協力しておこなっています。その全体像を「認知機能」といいますが、くわしい検査は多大な時間を要するため、簡便な改訂長谷川式簡易知能スケール(HDSR)や、ミニメンタルステート検査(MMSE)がおこなわれています。時間や場所の認識(見当識)、計算、すこし前のことを思い出す(遅延再生)、物の名前、文章の指示に従う、図形を書く、野菜の名前を10個言う(流暢〈りゅうちょう〉性、自発性)などです。30点満点で、HDSRで20点以下、MMSEで23点以下であると、認知症の疑いがあります。

④意欲、うつ
 意欲やうつに関係する脳内の神経情報を伝える物質(セロトニン、ドパミンなど)が脳の病気やからだの病気、ホルモンの不調、社会的ストレスなどによって不足したり、効きがわるくなったりしたときに、意欲の低下やうつ傾向になります。
 高齢者はこれらの要素が複合的に重なりやすいため、地域住民におけるうつ傾向は10?20%、入院高齢者では30%以上といわれています。
 意欲の低下やうつは病気の回復を遅らせ、在宅復帰をさまたげ、認知機能にも悪影響があることがわかってきました。入院高齢者では意欲の低下は生命予後にも密接な関連があることがわかっています。意欲の指標と意欲と生存率について以下に示しました。

●意欲の指標(vitality index)
1)起床
(wake up)
いつも定時に起床している=2点
起こされないと起床しないことがある=1点
自分から起床することはない=0点
2)意思疎通
(communication)
自分から挨拶する、話しかける=2点
挨拶、呼びかけに対し返答や笑顔がみられる=1点
反応がない=0点
3)食事
(feeding)
自分からすすんで食べようとする=2点
うながされると食べようとする=1点
食事に関心がない、まったく食べようとしない=0点
4)排泄(はいせつ)
(on and off toilet)
いつも便意、尿意を伝える/自分で排尿、排便をおこなう=2点
ときどき尿意、便意を伝える=1点
排泄にまったく関心がない=0点
5)リハビリ、活動
(rehabilitation, activity)
自ら参加を求める=2点
うながされて向かう=1点
拒否、無関心=0点



(執筆・監修:地方独立行政法人 東京都健康長寿医療センター 理事長/国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター 理事長特任補佐 鳥羽 研二)
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