顎変形症〔がくへんけいしょう〕 家庭の医学

 あごの発育異常には、先天性のものと後天性のものがあります。先天性のものは、出生時にすでにあらわれている場合と、出生時には目立たなかった形態異常が、成長・発育に伴って顕著にあらわれてくる場合があります。後天性のものは、なんらかの病気(全身の骨の病気、脳下垂体ホルモンの異常など)の症状あるいは後遺症(顎関節や顎骨の外傷、炎症、腫瘍など)として変形があらわれるものです。

[症状]
 上あごに起こるもの、下あごに起こるもの、および両方に起こるものがあります。
 上あごが大きくなる、もしくは下あごが小さくなると上あごの前突が起こり、いわゆる「出っ歯」になります(上顎前突症)。反対に下あごが大きくなる、もしくは上あごが小さくなると下あごの前突が起こり、いわゆる「受け口」になります(下顎前突症)。

 そのほかにも、あごの成長方向の問題で上下の歯が接触せず、かみ合わせできなくなるような場合(開咬〈かいこう〉症)や、左右の発育の不均衡により左右非対称になることもあります。
 いずれもいちじるしい場合には、上下の歯で正しくかみ合わせることができなくなり、咀嚼(そしゃく)障害、言語障害といった機能障害を起こします。さらに、顔の変形ということで機能的面と審美的面が直接関連しあいます。

[治療]
 変形が進行中で原因があきらかな場合には、原因の除去・治療をおこないます。原因が不明の場合には病変の動きを観察し適切な治療の時期を見きわめます。
 変形が軽い場合には歯列矯正(きょうせい)治療のみで治ることもありますが、いちじるしい場合には顎骨形成手術をおこなう必要があります。手術をおこなう時期は、あごの発育がとまるだいたい18~20歳ころが一般的です。
 上あご全体を切る場合、(Le Fort〈ルフォー〉Ⅰ型骨切り術)、上あごを部分的に切る場合(Wassmund〈ワスムント〉法など)、左右の下あごを切る場合(下顎枝矢状分割術〈かがくししじょうぶんかつじゅつ〉、下顎枝垂直骨切り術〈かがくしすいちょくこつきりじゅつ〉など)、下あごを部分的に切る場合(ケーレ法など)、上あご・下あごの両方を切る場合など、その症状に応じた手術をおこないます。また、特に変形がいちじるしい場合や、周囲の皮膚などの軟組織にも原因があるような場合には、顎骨に切れ目を入れて、切れ目を少しずつひろげて、骨を引き伸ばすこともあります(仮骨延長法〈かこつえんちょうほう〉)。
 いずれにしても、手術前後の矯正治療、補綴(ほてつ)治療をあわせて総合的に治療をおこなう必要がありますので、口腔(こうくう)外科、矯正歯科、補綴(ほてつ)歯科がチームを組んで集学的に治療をおこなっている病院を受診するほうがよいでしょう。

【参照】顔の病気:顎変形症

(執筆・監修:東京大学 名誉教授/JR東京総合病院 名誉院長 髙戸 毅)
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