[骨・関節と脊椎の構造とはたらき]

 骨・関節と脊椎(せきつい)、それを支え動かす筋肉は運動器と呼ばれ、手の運動、歩行、姿勢保持といった人間の生活に直結する機能をもったたいへん重要な構造です。運動器が障害されると、日常動作が大きく制限されるばかりでなく、関節痛や神経痛を生じ、生活の質は低下してしまいます。
 日本整形外科学会では、運動器の障害による移動機能の低下した状態をあらわす新しい言葉として「ロコモティブシンドローム」(以下「ロコモ」)を提唱しました。ロコモとは運動器の障害により要介護になるリスクの高い状態になることです。健康寿命を延ばすためにロコモの予防はとても重要です。このためには骨・関節・脊椎・筋肉の病気を予防することが必要となります。さらに加齢により、身体機能はおとろえます。筋力低下、持久力低下、反応時間延長、運動速度の低下、巧緻性低下、深部感覚低下、バランス能力低下などもロコモの原因となります。ロコモを予防し健康寿命を延ばすことが、わが国の超高齢化社会ではなによりも求められています。骨・関節・脊椎・筋肉の病気について知ることの重要性をご理解いただいたことと思います。


運動器の構成要素
■骨格
 骨格は重力に抗してからだの形を一定に保持していて、ビルの鉄筋のようなはたらきをしています。もし骨格がなければ、わたしたちのからだはクラゲやタコのようになってしまい、からだの形を維持できないばかりか内臓を保護することもできなくなります。
 人体の骨格は200余りの骨が連結して構成されています。それぞれの骨は関節や靱帯(じんたい)で結合されています。大腿(だいたい)や下腿(かたい)の骨のように細長い形の骨は長管骨と呼ばれ、頭蓋(ずがい)骨のように扁平(へんぺい)な形の骨は扁平骨と呼ばれます。
 骨の表面は骨膜と呼ばれる薄い膜でおおわれ、骨に栄養を供給したり骨折の際に治癒(ちゆ)を進める役目をしています。骨の外層は皮質骨と呼ばれるかたい骨で構成され、内腔(ないくう)は骨髄といって海綿骨という海綿状の骨で網の目状に満たされています。このような構造により、骨は軽いわりにとても強い外力にも耐えられるようになっています。また、海綿骨を除いた骨髄には血液をつくる役目があります。
 骨の両端で関節を構成している部分は関節軟骨という軟骨でおおわれています。また、長管骨のはしの近くには骨端線(こつたんせん)と呼ばれる軟骨層があり、子どもの骨が成長するときにこの部分の軟骨が成長して骨になります。成人になると骨端線は閉じて成長がとまります。子どものときに骨端線にけがをすると、その骨の成長障害や変形を生じることがあります。
 骨はたえずつくりかえられつつ、その形態と機能が維持されています。ビルのコンクリートでは長い時間が経過すると、劣化してひび割れが生じますが、骨はたえず新しいものにつくりかえられているため、このような心配はありません。骨の表面には破骨細胞という細胞があり、古くなった骨をたえず吸収しています。同時に骨芽細胞という細胞が新しい骨をたえずつくっています。この骨の吸収と新生のバランスがくずれて、骨の量が減ってくると骨粗鬆症(こつそしょうしょう)という骨がすかすかな状態になってしまいます。
 さらに骨はカルシウムの最大の貯蔵庫であり、人体中の全カルシウムの99%が骨に貯蔵されています。カルシウムの骨と血液との出入りはホルモンにより調節されています。
 このように骨格は、からだを支え、運動を可能とし、脳や脊髄や内臓など、外力に弱い臓器を保護し、造血機能をいとなみ、さらにカルシウム代謝にも重要な役目をになっています。

■関節
 骨と骨は連結して関節を形成し、複雑な運動を可能にしています。ひざやひじや肩のようによく動く関節から、骨盤の関節のようにほとんど動かない関節までいろいろな種類の関節があります。
 関節は関節包と呼ばれるふくろ状の組織で包まれています。関節包のなかでは、骨の表面は大人で数ミリの厚さの関節軟骨というなめらかで弾力のある組織でおおわれています。

 関節軟骨は水分を多く含んでいて、表面がなめらかなために関節のスムーズな動きを可能にしています。水分を含んでいるのは関節軟骨にあるプロテオグリカン分子が水を吸い寄せる力をもっているからです。加齢によりこの関節軟骨がそこなわれると、なめらかな動きができなくなります。
 関節包の内側は滑膜(かつまく)というやわらかくひだのある組織でおおわれています。滑膜は滑液という潤滑油に相当する液体を分泌し、関節の動きをなめらかにします。さらに滑液は関節軟骨に栄養を供給します。関節リウマチではおもにこの滑膜に炎症が生じます。
 関節包の外側はかたい靱帯(じんたい)性の線維組織でおおわれ、関節に異常な動きが生じないようにして関節を保護しています。膝(ひざ)関節のなかには十字靱帯という特殊な靱帯があり、ひざの運動と支持性をコントロールしています。サッカー選手ではしばしばこの十字靱帯の断裂がみられます。
 筋肉は「曲げる」と「伸ばす」など、反対の運動をする筋肉(拮抗〈きっこう〉筋)が対になっています。

 いっぽうが収縮し、かたほうがゆるむと関節は「動き」ます。両方がいっしょに収縮すると関節は動かず、「支え」の仕事をおこなうことになります。筋肉は、筋力だけでなく、柔軟性や拮抗筋とのバランス、筋肉を動かす神経とのつながりなども重要です。

■脊椎
 脊椎は頸椎(けいつい)7個、胸椎12個、腰椎5個、仙骨(仙椎〈せんつい〉)5個、尾骨(尾椎)より構成されていますが、数や形態には多少のばらつきがあります。

 脊椎は支柱となってからだを支えるとともに、からだを前に曲げたり(前屈〈ぜんくつ〉)、うしろに反ったり(後屈〈こうくつ〉)などの運動を可能にしています。さらに脊柱管という管の中に脊髄や馬尾(ばび)、神経根という大切な神経組織を保護する役目も果たしています。
 おのおのの椎骨は椎間板という軟骨のクッションではさまれていて、一種の関節を形成しています。

 背骨のうしろにも椎間関節という小さな関節が左右にあり、脊椎の支持と運動に役立っています。脊椎の周囲には多くの丈夫な靱帯(じんたい)があって、脊椎の異常な動きを防ぎ、神経組織を保護しています。
 脊椎のけがや変形はその中にある脊髄や馬尾、神経根という神経組織に悪影響を及ぼし、重篤な障害の原因となることがあります。
 筋肉は拮抗筋として対になっています。一方が収縮し、片方がゆるむと背骨は「動き」、両方がいっしょに収縮すると背骨は「支える」仕事をおこなうことになります。筋肉は、筋力だけでなく、柔軟性や拮抗筋とのバランス、筋肉を動かす神経とのつながりなども重要です。

■筋肉と末梢神経
 骨格を動かす筋肉は横紋(おうもん)筋と呼ばれ、骨格に付いて関節を動かしたり、脊椎を支えたりします。すべて脊髄から分岐した神経によりコントロールされています。したがって随意筋ともいわれます。これに対し、胃や腸のような内臓の壁にある筋肉は平滑(へいかつ)筋と呼ばれ、自律神経によりコントロールされ、随意性はありません。
 筋肉が骨に付着している部分で黄白色の光沢をもった線維組織を腱(けん)といいます。腱は筋肉全体の収縮力を骨や関節のある1点に収束させ、効率的で繊細な運動を可能にします。なかでもアキレス腱は最大の腱です。手指にも多くの腱があり、たいへん複雑な手指の運動や強力なつまみ動作やにぎり動作を可能にしています。
 一つの関節運動に際しては多くの筋が複雑に作用しあっています。この連合運動は中枢神経、脊髄によりコントロールされていますが、その情報を伝達するのが末梢神経です。末梢神経は手足や体幹のなかを網の目のようにはりめぐらしています。末梢神経が損傷されるとその神経に支配された筋肉は収縮できなくなり、萎縮してしまいます。
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