身近な中毒 家庭の医学

■身近な中毒事例
 身近な中毒事例としては、乳幼児の誤飲事故や、近年では認知症高齢者の誤飲事例などが多く散見されます。わが国では、このようなさまざまな化学物質などに起因する、急性中毒などについて、一般国民および医療従事者などに対する啓発、情報提供などをおこなうことにより、わが国の医療の向上をはかり、広く公益に寄与することを目的に、1986年に日本中毒情報センターが設立されました。主として、1.一般家庭および医療施設向けの中毒に関する情報の提供、2.中毒に関する資料収集、3.中毒事故予防のための啓発・教育、を中心におこなっています。
 2022年の日本中毒情報センター受信報告によると、年間の一般家庭および医療機関を合わせて、総数約2万7千件の相談があり、約9割は家庭からの相談でした。中でも5歳以下の問い合わせが4分の3を占めます。内訳は、家庭用品が52%、医薬品が医療用と一般用を合わせて37%、自然毒、食品、工業用品、が各々3~5%、農業用品1%程度と続きます。
 家庭での事例は、別項に示すように、原因物質によって、医療機関での治療内容は大きく異なってきますので、摂取した原因物質と疑われるものがあるならば、持参する必要があります。


■危険ドラッグ
 最近では、覚醒剤や危険ドラッグに代表されるような興奮薬や幻覚剤の乱用も社会的な問題になっています。嘔吐や意識障害、興奮状態など、さまざまな健康被害の報告に加えて、死亡事例も報告されていますが、成分が不明であり、適切な治療が確立されていないものが多いのが現状です。輸入規制や法規制が、間に合わないことも多く、薬物曝露に巻き込まれないように十分な注意が必要です。

(執筆・監修:筑波大学附属病院救急・集中治療科 教授 井上 貴昭)