食べかたの基本 家庭の医学

 健康な生活をおくるためには、食事が大切な役割を果たします。健康の増進や生活習慣病(非感染性疾患〈※〉)予防のために、日本人がどのくらいのエネルギー量・栄養素をとったらいいのかについては、「日本人の食事摂取基準(2020年版)」(厚生労働省)にて、年齢・性・身体活動別に、エネルギー、たんぱく質、脂質(総脂質、飽和脂肪酸、n-6系脂肪酸、n-3系脂肪酸)、炭水化物(炭水化物、食物繊維、糖類)、ビタミン類13項目、ミネラル13項目が示されています。
 数値の示しかたは、エネルギーと栄養素では異なっています。エネルギーは、「推定エネルギー必要量」1つで示され、栄養素は、「推定平均必要量」「推奨量」「目安量」「目標量」「耐容上限量」の5つの数値を示しています。示されている数値は、栄養素によって異なっています。
 「推定平均必要量」は、日本人の必要量の平均値です。したがって、半分の人は不足することになります。この不足を回避するために、「推奨量」を示してあります。この量は、ほとんどの人(97~98%)が必要量を満たすと推定される1日の摂取量です。
 「目安量」は、データ不足から前述の2つの数値を示すことができない栄養素について、一定の栄養状態を維持するのに十分な量で、目安量以上を摂取していれば、不足のリスクはほとんどない量として示されています。
 「目標量」は生活習慣病の1次予防のために日本人が当面、目標とすべき数値です。「耐容上限量」は、サプリメントや健康情報の誤解などから起こる過剰摂取による健康障害を未然に防ぐ目的で、定められたものです。
 ずいぶん複雑だと思われるかもしれませんが、栄養に関する基本的な考えかたが、「欠乏症をなくすために」というものから、「健康の維持・増進、生活習慣病を予防するための基準」にシフトしたためです。
 市町村の保健センターや企業の保健室からの「食べかた」や、「適正な栄養量」に関する資料の多くは、この数値がもとになっています。数値については推奨量なのか、目標量なのか、などが記載されているはずです。この数値についての正しい知識は、いろいろな場面で役立ちます。

※世界保健機関(WHO)では、生活習慣病に似た概念として非感染性疾患(NCDs :Noncommunicable diseases)を用いています。NCDsは、心臓病、脳卒中、がん、糖尿病のほか、慢性呼吸器系疾患などの「感染性ではない」疾患の総称です。これらの疾患は、個人の意識と努力だけでなく社会的な環境整備が必要で、包括的な取り組みをおこなおうとすることが世界的な潮流となってきています。

(執筆・監修:聖徳大学 人間栄養学部人間栄養学科 兼任講師 宮本 佳代子)