どんな病気でも、こころとからだの両方に影響が出ます。精神疾患では食欲や睡眠といった身体面への影響がまず避けられませんし、逆に身体疾患にかかった場合でも、治るかどうかといった心配や、もう治らないかもしれないといった不安が大なり小なり伴います。
ところが、身体疾患のなかには、その人の性格や環境が発病や経過に強い影響を与えるものがあります。たとえば
十二指腸潰瘍はストレスの影響を受けて再発しやすいといった類です。
このように、身体疾患でありながら、その診断や治療に心理的要因を考えなくてはいけない状態を心身症と呼んでいます。いわば精神疾患と身体疾患の中間にあるもので、独立した疾患ではありません。
[原因]
心身症の原因として性格的な面がいわれています。人はストレスに遭うと、自律神経系のはたらきに影響が出ます。ストレスには、一時的なものと持続的なものの両方がありますが、どちらの場合も神経系のはたらきを介して内分泌、循環器、消化器などに影響が出ます。そのような場合、通常はストレスをうまく処理して臓器に障害が出ないように適応できています。
その処理の一つが感情の発散ですが、心身症になりやすい人は、そのような感情面の処理がへたな人が多いのです。このような性格は失感情症(アレキシチミア)と呼ばれています。
また、心身症になりやすい人は、周囲に合わせてしまう傾向があります。時に適応しすぎのように見えることもあります。つまり、持続的にストレスを受けてしまうような傾向にあります。
以上のような性格の人が、ストレスの強い環境に長くいることで心身症が発生すると考えられています。
[分類]
くり返しますが、なんらかの身体の病気があって、その原因や経過に心理的な要素が深く関係している場合に心身症といわれる状態になります。したがって、以下の病名がすべて心身症であるということではありません。
1.神経性皮膚炎、皮膚そう痒(よう)症、アトピー性皮膚炎、円形脱毛症、多汗症、慢性じんましん、湿疹(しっしん)などの皮膚科的疾患
2.筋けいれん(チック、書痙〈しょけい〉など)、緊張性頭痛、痙(けい)性斜頸などの疾患
3.気管支ぜんそく・過換気症候群・しゃっくりなどの呼吸器系疾患
4.発作性頻脈、高血圧、血管攣縮(れんしゅく)、神経性狭心症などの循環器疾患
5.消化性潰瘍、慢性胃炎、潰瘍性大腸炎、過敏性腸症候群などの消化器疾患
6.摂食障害
7.月経障害、排尿障害などの生殖泌尿器(ひにょうき)疾患
8.甲状腺機能亢進(こうしん)症、糖尿病などの内分泌疾患
9.めまい、失神、耳鳴りなどの機能性障害
[治療]
身体治療と並行して心理面を配慮した治療をおこないます。
心理療法としては、言語による感情の表出をうながすような精神療法もよいのですが、もともと感情の表出が苦手な人が多いだけに、自律訓練法や行動療法、認知行動療法などが有益です。行動療法のなかでよく用いられている方法としてバイオフィードバック法があります。これは、心拍数、筋電図、脳波などを連続的に記録しながら、筋肉の力を抜くなどのリラックス法をおこなう治療です。記録に好ましい変化があらわれたときの動作などを持続できるように訓練します。
その他、いろいろなリラクゼーションも有効です。また不安、緊張、抑うつなどの症状が強い場合には、抗不安薬や抗うつ薬を用いることもあります。
(執筆・監修:高知大学 名誉教授/社会医療法人北斗会 さわ病院 精神科 井上 新平)
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