頭部外傷〔とうぶがいしょう〕

 開放性の傷、打撲、骨折、脱臼(だっきゅう)、圧迫などで神経系や筋肉が損傷された場合です。末梢神経や筋肉は直接障害されることが多いのですが、中枢神経系のほうは、頭蓋骨や背骨の損傷で、間接的に強く障害されることが特徴です。
 特に頭蓋骨の骨折では、折れた骨の端で、その向きにより致命的な脳の障害が起こりますし、脊髄と背骨の関係についても同様です。
 外傷による直接障害のほかにも重要な点は、血管障害を介して起こる障害で、脳や脊髄の出血がその代表的なものです。慢性硬膜下血腫は外傷の強さにはあまり関係なく、すこしずつ脳硬膜の内側へ出血して血腫(血まめ)をつくり、大きくなると脳腫瘍と似たような症状を呈します。脳外科手術の良い対象となります。
 頭皮が切れ外へ出血したり、こぶができていても、頭蓋骨の骨折、頭蓋内出血、脳組織自体の損傷がなければ特に心配はなく、一般的な外科の治療で治ります。

■頭蓋骨骨折
 線状骨折(単なるひびが入った状態)、陥没骨折(一部が脳の方向へ落ち込んだ状態)、粉砕骨折(一部がくだけてしまう場合)などがありますが、これらが頭の表面の側(頭皮の下部)であるときには、さほど重症とならない場合もあります。
 しかし、頭蓋底骨折(骨折が脳の底面近くに起こった状態)では、鼻や耳から出血したり、髄液が漏れたりします。髄膜炎を起こしやすく、脳組織や脳神経の損傷を伴いやすいので、重症の頭部外傷となります。この場合は入院がぜひ必要です。

■脳振盪と脳挫傷
 脳にある程度以上の外力が加わると、意識障害が起こりますが、一瞬気を失った程度で回復し、脳自体に直接の損傷がないような場合は、単に脳振盪(しんとう)といわれています。これに対し、脳が直接破壊された場合は脳挫傷(ざしょう)といわれ、持続する意識障害、けいれん、四肢の運動まひ、感覚の障害、言語障害、排尿障害、精神症状などがあらわれます。
 脳挫傷の場合は脳浮腫を伴い、脳ヘルニア(脳の一部が髄膜をかぶったまま本来の場所より下方へ移動すること)を起こしやすいため、重症で生命の危機もあり、脳外科的な処置が必要です。

■頭蓋内出血
 脳挫傷の結果または単独に、頭蓋内にいろいろなかたちの出血を起こすことがありますが、これも重大な状態です。脳出血の項で述べているように、脳内出血、脳室内出血、くも膜下出血急性硬膜下血腫、急性硬膜外血腫などで、いずれも状況に応じた脳外科的処置を必要とします。
 外傷を受けた直後は特に症状が出なくても、2週間から3カ月後ぐらいにはっきりあらわれてくる慢性硬膜下血腫も頻度が高い(急性、慢性あわせて頭部外傷の5%程度)ので注意を要します。特に高齢の方に多く見ます。

[診断]
 外傷を受けたときのくわしい状況・症状・経過(本人の意識障害や記憶喪失のある場合は、目撃者・近親者などの協力が必要)、医師による神経学的な診察がまず重要です。
 他の専門的な臨床検査としては、頭蓋骨のX線撮影(特に骨折)、CT(特に脳損傷や頭蓋内血腫)、脳血管造影、頭部超音波検査、脳波、髄液検査などがありますが、その選択・実施は専門医によっておこなわれます。

[治療]
 意識障害のあるときは、吐物・唾液(だえき)が気管につまって窒息することのないように頭(できるだけからだも)を横向きにし、嘔吐(おうと)による誤嚥(ごえん)のおそれのあるときは、顔が斜め下方を向くようにしておきます。
 頭皮の出血は強く圧迫すればとまりますが、以後の処置は至急専門医に任せることが第一です。開放性骨折(骨折部が外部に通じている)のときは、感染防止のため抗生物質などを投与、骨折の状況により、頭蓋内出血は原則として緊急に手術をおこないます。術後の早期リハビリテーションも必要です。

■頭部外傷後遺症
 頭部外傷のあとに起こってくるさまざまな障害を、ひとまとめにして頭部外傷後遺症といいます。これは便宜上2つの群に分けられます。一つは、脳の損傷によって直接起こった症状で、障害部位により片まひ、言語障害、視力障害、聴力障害、外傷性てんかんなど多彩です。
 もう一つは、見かけ上または検査所見上、客観的に一応正常であるのに、頭痛、頭重感、めまい、耳鳴り、手足のしびれ、不眠、精力減退、集中力低下や情緒の不安定など、自律神経失調症ないしは更年期にみられるいわゆる不定愁訴(ふていしゅうそ)があらわれてくる場合です。
 客観的にはっきりした身体症状についてはリハビリテーション(理学療法・作業療法・言語療法など)に全力をあげ、外傷性てんかんの合併している場合には薬物療法もおこなわれます。
 不定愁訴に対しては専門の医師からよく説明を聞いて恐怖・不安を取り除き、さらに必要に応じて専門医(脳神経内科〈神経内科〉または精神科などを含めて)の治療を受けるのがよいでしょう。

【参照】外傷[創傷]:頭部外傷

(執筆・監修:一口坂クリニック 作田 学)

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