代謝機能障害関連脂肪性肝疾患〔たいしゃきのうしょうがいかんれんしぼうせいかんしっかん〕

 脂肪肝は、肝臓も合成能や解毒排泄能を担う細胞である肝細胞の中に、中性脂肪がたまった状態です。肥満、飲酒、薬物内服、糖尿病などが原因になります。これら脂肪肝のうち、飲酒や薬物などが原因でなく、肥満、糖尿病などの代謝機能障害による場合を、「代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)」と呼びます。
 飲酒量がエタノール換算で1日あたり男性は30g未満、女性は20g未満の患者さんで、肥満、高血糖、高血圧、中性脂肪高値、善玉コレステロール(HDL)低値の5項目のうち少なくとも1項目がみられ、肝生検をおこなって、顕微鏡で観察すると、脂肪滴がある肝細胞が全体の5%以上を占める場合に、MASLDと診断します。エタノール量20gはアルコール度数5%のビールや酎ハイが500 mL、日本酒が1合に相当します。また、実際は肝生検をおこなわなくても、超音波検査などで脂肪肝と診断される場合は、脂肪滴がある肝細胞は30%以上ですので、肝機能検査や画像検査で脂肪肝と診断され、飲酒量が上記の規定未満で、代謝機能障害が認められる場合は、MASLDと診断され、わが国には1000万人以上の患者さんが存在すると考えられています。飲酒量の少ない脂肪性肝疾患は、2023年までは非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)と診断されていましたが、NAFLDの患者さんはほぼ全例がMASLDに相当すると考えられています。
 MASLDの患者さんのうち、肝組織を顕微鏡で観察して、肝細胞が風船のようにふくらんでいる場合は、「代謝機能障害関連脂肪肝炎(MASH)」と診断します。以前はMASHの患者さんのみが、肝臓が硬くなって、肝硬変に進展し、肝がんを併発することがあると考えられてきました。しかし、最近ではMASHとMASH以外のMASLDの区別はあまり意味がなく、どちらの場合も肝臓が硬くなる線維化の有無が、予後を決定することと考えられるようになりました。
 このためMASLDの場合、まず、FIB-4インデックスを計算します(肝臓の検査の項参照)。これが1.3以上の場合は線維化が起こっている可能性があり、2.66を超えていたり、血小板数が20万/ mm3未満であったりする場合は肝硬変になっている可能性を考慮して、超音波エラストグラフィなどの肝硬度と脂肪量を測定する検査をおこないます。また、症例によっては肝生検検査もおこないます。
 MASLDの治療は、食事療法と運動で減量することが原則です。一般に体重が7%減少すると肝臓の炎症が軽快し、10%減少すると肝臓の硬さが改善するとされています。また、動脈硬化がある場合はビタミンE、糖尿病がある場合はSGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬を投与すると、MASLDも改善します。脂質異常症や高血圧も適切な薬物療法をおこなうと、MASLDの改善につながることが期待できます。さらに高度の肥満の場合では、肥満手術も考慮する必要があります。

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