切除不能肝細胞がん(uHCC)患者を対象とする第Ⅲ相非盲検国際多施設ランダム化比較試験HIMALAYAでは、マルチキナーゼ阻害薬ソラフェニブ単独療法に対し、①抗PD-L1抗体デュルバルマブ繰り返し投与+抗CTLA-4抗体トレメリムマブ単回投与の併用療法(STRIDEレジメン)による全生存(OS)の延長、②デュルバルマブ単独療法の非劣性-が示されている(関連記事「デュルバルマブ+tremelimumab、切除不能肝細胞がんのOS延長」)。中国・Humanity and Health Clinical Trial CenterのGeorge Lau氏らは、アジア地域の登録例を対象に同試験のサブグループ解析を実施。アジア人サブグループにおいても、ソラフェニブ単独療法と比べ、STRIDEレジメンおよびデュルバルマブ単独療法でOSが有意に良好だったとの結果を、J Hepatol(2025; 82: 258-267)に報告した。
欧米や日本と異なり、アジア地域におけるHCCの主因はHBV
肝細胞がん(HCC)は肝がんの中で最も多く見られ、世界的にがん関連死の主な原因となっているが、病因は地域ごとに異なる。日本や欧米諸国ではC型肝炎ウイルス(HCV)感染の他、代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)/代謝機能障害関連脂肪肝炎(MASH)、糖尿病など非ウイルス性病因が多いのに対し、アジアの大半の地域ではB型肝炎ウイルス(HBV)感染が60%を占めている。また、ソラフェニブのSHARP試験では欧米諸国の登録例と比べ中国、韓国、台湾などの登録例は生存期間が短い傾向が観察されている一方、免疫チェックポイント阻害薬の転帰は、他の病因よりHBV感染HCCで良好との報告がある。
HIMALAYA試験では、uHCC患者1,171例を①STRIDE群(トレメリムマブ300mgを単回投与+デュルバルマブ1,500mgを4週間隔で投与)、②デュルバルマブ群(デュルバルマブ1,500mgを4週間隔で投与)、③ソラフェニブ群(400mgを1日2回投与)-に1:1:1でランダムに割り付け比較した。主解析では主要評価項目としたソラフェニブ群に対するOSのハザード比(HR)は、STRIDE群で0.78(96.02%CI 0.65~0.93、P=0.0035)と有意に良好で、デュルバルマブ群で0.86(95.67%CI 0.73~1.03、非劣性マージン1.08)と非劣性が示されている。
Lau氏らは今回、日本以外のアジア地域におけるSTRIDEレジメンの有効性と安全性を検討する目的でHIMALAYA試験のアジア人サブグループ解析を実施。主要評価項目はOSとし、副次評価項目として客観的奏効率(ORR)、奏効期間(DoR)などを評価した。なお同試験には中国本土の症例が登録されていないため、香港と台湾の中国系参加者を対象に探索的解析も行った。
OS中央値は、ソラフェニブ群11.8カ月 vs. STRIDE群16.5カ月
解析対象は、全アジア人サブグループ(全体)がSTRIDE群156例(年齢中央値60.5歳、男性86.5%、HBV感染62.8%)、デュルバルマブ群が167例(同59.0歳、82.6%、58.1%)、ソラフェニブ群が156例(同61.0歳、85.9%、64.1%)、香港・台湾サブグループがそれぞれ56例(同62.0歳、男性83.9%、76.8%)、42例(同58.5歳、88.1%、66.7%)、43例(同64.0歳、93.0%、74.4%)。各群の人口統計学的特徴とベースライン特性は、ほぼ均一だった。
解析の結果、全体のOS中央値はソラフェニブ群の11.8ヵ月(95%CI 9.4~14.7カ月)に対し、STRIDE群では16.5カ月(同12.6~22.1カ月)と有意に良好だった(HR 0.68、95%CI 0.52~0.89、図-上)。36カ月 OSもSTRIDE群で良好だった(17.3% vs. 32.2%)。香港・台湾サブグループにおけるOS中央値はソラフェニブ群の19.1ヵ月(95%CI 7.7~24.1カ月)に対し、STRIDE群では29.4カ月(同14.4カ月~未到達)と有意に良好だった(HR 0.44、95%CI 0.26~0.77)。36カ月 OSもSTRIDE群で良好だった(14.8% vs. 49.2%)。
一方、デュルバルマブ群のOS中央値は全体で16.6カ月(95%CI 12.2~19.2カ月、ソラフェニブ群に対するHR 0.83、95%CI 0.64~1.06、図-下)、香港・台湾サブグループで23.6カ月(同17.4~31.3カ月、0.64、0.37~1.08)と、有意ではないものの延長傾向が見られた。
図. 主要評価項目:OS
(J Hepatol 2025; 82: 258-267)
ORRは、全体ではソラフェニブ群が9.0%、STRIDE群が28.2%、デュルバルマブ群が18.6%、香港・台湾サブグループではそれぞれ4.7%、33.9%、23.8%と、デュルバルマブ投与の2群で高値だった。DoR中央値は、全体では10.2カ月(四分位範囲4.0~26.0カ月)、13.7カ月(同4.4~32.2カ月)、9.2カ月(同3.7カ月~未到達)、香港・台湾サブグループでは未到達(同4.0カ月~未到達)、20.5カ月(同3.8カ月~未到達)、5.5カ月(同1.9カ月~未到達)と、いずれもSTRIDE群で長かった。
治療関連有害事象もSTRIDE群で少ない
安全性を見ると、なんらかの有害事象の発現率はソラフェニブ群が96.0%、STRIDE群が94.2%、デュルバルマブ群が88.5%、Grade 3/4が46.4%、46.8%、33.9%、治療関連有害事象が83.4%、71.8%、49.7%だった。香港・台湾サブグループにおける安全性プロファイルは、全体とおおむね一致していた。デュルバルマブ投与の2群で最も多かった治療関連有害事象は発疹で、それぞれ27.6%と12.1%に発現し、ソラフェニブ群で最も多かったのは手掌足底紅感覚症候群の58.9%だった。免疫関連有害事象は、ソラフェニブ群が5.3%、STRIDE群が30.1%、デュルバルマブ群が14.5%だった。
以上を踏まえ、Lau氏らは「HIMALAYA試験のアジア人サブグループ解析でも、ソラフェニブと比べSTRIDEレジメンはuHCCの転帰を有意に改善した。Grade 3/4の有害事象もSTRIDE群で少なかったことから、アジア太平洋地域を含む広範な地域のHCC患者におけるSTRIDEの有用性を支持する結果だ」と結論している。
(編集部・関根雄人)