肝臓の検査
肝臓の病気の診断には、血液や尿を用いた肝臓機能検査と画像検査をおこないます。肝臓のはたらきは多彩であり、多数の検査所見を総合して、肝臓の状態を診断します。いっぽう、胆道の病気では、画像検査が特に重要になります。
■肝臓がこわれている程度を反映する検査:肝逸脱酵素
肝臓の細胞(肝細胞)の中には、さまざまな物質をつくったり、解毒、排泄したりするために、多数の酵素があります。肝臓がこわれると酵素は血中に流れ出ますが、これらを肝逸脱酵素と呼び、その血中の量は、肝臓がこわれている程度を反映します。
肝逸脱酵素としては、一般にアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)とアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)を測定します。いずれも肝臓の細胞には大量に含まれていますが、ほかの臓器では細胞内の量が少ないため、これらの血中の値が高値の場合は、肝臓がこわれていると考えられます。健常人では血中のALT値はAST値より低く、ALT値は女性では20単位、男性では25単位を超えることがありません。どの医療機関でも、これら酵素の基準値上限は、より高く設定されています。このため基準範囲内であっても、ALT値がAST値より高い場合や、女性で20単位、男性で25単位を超える場合には肝臓病を疑います。ASTやALTの値が高いほど、肝臓の炎症は高度であり、急性肝炎ではこれらが1000単位以上になるのも珍しくありません。
乳酸脱水素酵素(LDH)も逸脱酵素として測定します。LDHは肝臓以外の臓器の細胞にも含まれています。このため溶血性貧血など肝臓以外の病気でも血清LDH値が高くなります。急性肝炎ではAST、ALTとともにLDHも高値になりますが、悪性腫瘍の肝転移など肝障害の原因が特殊な場合に、特に高値を示します。
■胆汁の流れやすさを反映する検査:胆道系酵素
胆汁の流れがわるくなると、血中に出てくる酵素です。ガンマ-グルタミルトランスペプチダーゼ(γ-GTP)、アルカリホスファターゼ(ALP)、ロイシンアミノペプチダーゼ(LAP)の3種類があります。γ-GTPは飲酒すると肝臓の細胞内で量がふえるため、アルコール性肝障害では胆汁の流れがわるくなくても高値になります。ALPは骨の細胞にも含まれており、骨の病気でも上昇します。また、血液型がB型ないしO型の場合は、小腸からALPが血中に分泌される場合があります。このためALPが高値であっても、必ずしも病気とは限りません。
■肝臓の機能がどれくらい悪化しているかを反映する検査
肝臓の機能として重要なのは、からだに必要なさまざまな物質をつくることと(合成能)、不要なものや有害なものを解毒して排泄することです(解毒・排泄能)。これらつくられたり処理されたりする物質の量を血中で測定することで、肝臓の合成能と解毒・排泄能がわかります。
□合成能
アルブミン、コリンエステラーゼなどのたんぱく、コレステロールなどの脂質は肝臓の細胞がつくっており、その血中濃度は肝臓の合成能を反映しています。また、プロトロンビン時間は肝臓がつくっている血液凝固因子の量を反映しており、これも合成能に関する検査です。
□解毒・排泄能
ビリルビンは肝臓の細胞(肝細胞)に取り込まれ、その中で処理されたのち、胆汁中へと排泄されます。このためビリルビンの血中濃度は、肝臓の解毒・排泄能を反映しています。血中には、肝臓で処理される前の非抱合型ビリルビンと、処理されたのちの抱合型ビリルビンの両方があります。通常はビリルビン全体(総ビリルビン)と抱合型ビリルビン(直接型ビリルビン)を測定して、その差から非抱合型ビリルビン(間接型ビリルビン)の量を計算しています。
なお、ビリルビンの濃度は、胆汁の流れがわるくなったり、溶血性貧血でできる量がふえたりしても高値になります。これら病態と区別するためには、胆道系酵素や直接型ビリルビンと間接型ビリルビンの比率を見ます。
■肝臓がどのくらい硬くなっているかを反映する検査
肝臓は比較的やわらかい臓器ですが、機能が低下する過程で硬くなってきます(肝線維化)。肝臓が硬くなると、門脈の血管内圧が高くなり(門脈圧亢進)、その結果、脾(ひ)臓が大きくなります(脾腫)。このため肝臓の硬さや門脈圧亢進の程度を反映する検査も、肝臓の病気がどのくらい進んでいるかを調べる際に、利用されます。
□肝線維化の程度
肝臓が硬くなると、肝臓にある糖たんぱくであるMac2結合たんぱくの糖鎖が、肝臓がやわらかい場合とは変わります。この変化の程度を見るのが、Mac2結合たんぱく糖鎖異性体(M2BPGi)の測定で、その値は肝臓が硬くなった程度や、肝がんができるリスクを反映しています。血小板がつくっているオートタキシンや、肝臓にたまる線維の一種であるⅣ型コラゲンなども肝線維化の程度を反映し、肝臓の硬さの評価に用いられます。
□門脈圧亢進の程度
脾臓が大きくなると、赤血球、白血球、血小板などの血球がたくさんこわされて、これらの血中での量は減少します。特に血小板数の低下は、肝臓の硬さ、門脈圧亢進の程度を反映しており、脂肪肝以外の肝疾患では11~13万/mm3、脂肪肝では20万/mm3を下回ると、肝硬変になっている可能性があります。
門脈圧が高くなると、食道胃静脈瘤など肝臓を素通りする側副血行路が発達し、腸内の細菌がつくったアンモニアが肝臓で処理されず、その血中濃度が上昇します。このためアンモニアも門脈圧亢進を反映する検査値です。また、アンモニアが高値になると、肝臓の代わりに筋肉がバリン、ロイシン、イソロイシンなどの分岐鎖アミノ酸を利用してアンモニアを処理します。このため、分岐鎖アミノ酸と肝臓で利用されるアミノ酸であるチロシンの比率(BTR)も門脈圧亢進の程度を反映しています。
なお、腸管からはアンモニア以外にさまざまな物質が門脈に入ってきます。側副血行路ができると、これらが肝臓で処理されないため、異物に対する免疫反応が起こります。このため肝硬変では、リンパ球がつくっているγ-グロブリンや、その成分であるIgGなどが血中で高値になります。ただし、これらは自己免疫性肝炎など免疫の異常による肝疾患でも高値になることに留意する必要があります。
□FIB-4インデックス
肝線維化が進むと、肝臓の細胞内のALT量が減り、血中ではALTに対するASTの比率が高くなります。また、血小板数は低値になり、高齢になるに従って、肝線維化の進行は早くなります。このため年齢、AST値、ALT値、血小板数からFIB-4インデックスを計算し、肝臓の硬さ、肝がんができるリスクを評価します。FIB-4インデックスの計算アプリには、日本肝臓学会のホームページからアクセスできます( FIB-4 index計算サイトのご案内(EAファーマ提供)(医療従事者向け))。肥満、糖尿病による脂肪肝では、FIB-4インデックス1.3以上の場合は肝線維化が起こっている可能性があり、2.66を超える場合は肝硬変になっているかどうかの精査が必要です。そのほかの肝疾患では、3.25以上の場合は肝硬変になっている可能性があります。
■肝がんの腫瘍マーカー
肝臓にできるがんの大部分は肝細胞がんですが、このがんがつくっているα-フェトプロテイン(AFP)やPIVKA-Ⅱ(ピブカ・ツー)を血中で測定することで、がんができているかどうかを評価できます。ただし、これら腫瘍マーカーは、肝細胞がんが一定の大きさにならないと上昇しないことが多く、肝がんの早期発見には超音波検査などの画像診断が必要です。むしろ腫瘍マーカーは、治療効果の判定や治療後の再発の診断などに用いられます。
□AFP
胎児の肝臓がつくっているアルブミンで、健常人の血中にはありませんが、肝細胞がんの患者さんの80%ぐらいで認められます。慢性肝炎や肝硬変の患者さんでも軽度の上昇がみられますが、高値の場合は肝細胞がんを疑います。AFPは糖鎖のついたたんぱくで、糖鎖の種類を見ることで、正常な肝臓がつくっているのか、がんがつくっているのかを区別できます。AFPのL3分画が見られる場合は、肝がんが存在する可能性が高くなります。
□PIVKA-II
血液凝固因子のプロトロンビンは、ビタミンKがはたらくと血液を凝固させる機能を発揮できるようになります。しかし、肝細胞がんは凝固機能を発揮できないプロトロンビンであるPIVKA-IIをつくっている場合があります。肝細胞がんの患者さんの60%ぐらいで血中に認められます。AFPが上昇していない患者さんでも、PIVKA-IIが上昇している場合があり、肝がんのリスクの高い患者さんでは、両腫瘍マーカーをともに測定します。しかし、ビタミンKが不足したり、血液が固まるのを抑えるワルファリンのような薬を飲んでいたりする場合には、がんがなくてもPIVKA-IIが高値になることに注意が必要です。
■肝臓病の成因の検査
肝臓病は成因は肝炎ウイルス、自己免疫、肥満、飲酒など多彩ですが、まず、肝炎ウイルスの感染と自己免疫性の異常があるかどうかを、血液検査で調べます。
□A型肝炎ウイルス(HAV)とE型肝炎ウイルス(HEV)
HAVの感染はIgM型のHAV抗体、HEVの感染はIgA型のHEV抗体で調べます。いずれも最近感染した場合に陽性となり、急性肝炎の患者さんの成因の検査で測定します。
□B型肝炎ウイルス(HBV)
HBVが感染しているかどうかは、ウイルスの表面にあるたんぱくであるHBs抗原の有無で調べます。HBVは感染すると肝臓の中に遺伝子が生涯にわたって残存し、消えることはありません。出生時など幼少期に感染すると、血中にウイルスが長期間みられるキャリアになり、慢性肝炎、肝硬変、肝がんの原因になります。いっぽう、成人になってから感染すると急性肝炎を発症しますが、血中からはウイルスが消えて、肝臓の中にはウイルスは残っていても病気は治った状態になります。病気がどのような状態にあるのかを調べるためには、HBc抗体、IgM型のHBc抗体、HBs抗体、HBe抗原、HBe抗体などを測定します。また、HBVにはすこしだけ遺伝子が異なるさまざまなタイプのウイルスがあり、これをあきらかにするために遺伝子型(ジェノタイプ)を調べる場合もあります。治療の必要性やその効果を評価するためには、ウイルスの遺伝子量であるHBV-DNA量や、HBs抗原量、HBコア関連(cr)抗原量なども測定します。
□C型肝炎ウイルス(HCV)
HCVが感染しているかどうかは、HCV抗体を測定することで調べます。しかし、HCVは感染しても20~30%の患者さんでは自然経過でウイルスがいなくなります。このためHCV抗体が陽性でもウイルスが存在するとは断言できませんので、HCV抗体が陽性の場合はウイルスの遺伝子であるHCV-RNAの有無を調べます。どのような治療をおこなうかを決めるためには、HCV-RNA量だけではなく、遺伝子型(ジェノタイプ)を反映する血清型(セログループ)も測定し、肝機能がどの程度低下しているかなども参考にします。
□自己免疫性
自己免疫性肝炎では抗核抗体とリンパ球がつくるIgGが、原発性胆汁性胆管炎では抗ミトコンドリア抗体とリンパ球がつくるIgMが高値になる場合が多く、これらが成因の診断に用いられています。
■画像検査と肝硬度測定
肝臓病の種類や、病気の進み具合、肝がんの有無などを診断するためには、まず、超音波検査をおこない、必要に応じてCT、MRI、血管造影などの検査をおこないます。胆道系に異常がある場合には、消化管内視鏡下に胆管に造影剤を注入して、X線撮影する場合もあります。
□超音波(エコー)検査
超音波をからだの表面から当てて、反射波の返ってくる状況から、肝臓など臓器の内部構造を映像化する検査法です。通常は空腹時、できれば朝食をとる前に、皮膚表面にゼリーを塗って超音波が体内に入りやすいようにして、からだの断面を断層的に描き出します。なんの苦痛もなく、外来で簡単におこなえます。
脂肪肝の診断、慢性肝炎から肝硬変への病気の進み具合の評価、肝がんの早期発見と肝嚢胞などの良性腫瘤との区別、胆石や閉塞性黄疸の診断などに用いられます。肝生検、ラジオ波焼灼(しょうしゃく)療法など、肝臓に針を刺す検査や治療にも利用します。
□CT検査
CTはコンピュータ断層撮影(computed tomography)の頭文字で、X線を用いて肝臓を含むからだの輪切りの横断面や縦切りの縦断面を映し出します。造影剤を静脈注射してから撮影すると、血流がある部分が強調された画像を撮影することができ、腫瘤などの検出能が増します。また、造影剤を注射してから時間を変えて撮影をくり返すことで、腫瘤に流入する動脈や門脈の血流量が評価可能で、その状況から肝がんか血管腫のような良性の腫瘍かの区別も可能です。
□MRI検査
磁気共鳴現象を利用して、X線を用いないで、CTと同様にからだの断層像を映し出します。CTに比較して、MRIは肝腫瘍の種類を診断するために有用で、造影剤を用いないでも、血管や胆管などを描出することが可能です。肝臓の細胞に取り込まれる造影剤を静脈注射してから撮影すると、小さな肝がんの検出能が向上します。
□内視鏡的逆行性胆管膵管造影法(ERCP)
口から十二指腸まで進めた内視鏡の先端からチューブを出して、胆管が十二指腸に開口するところに挿入します。胆汁の流れとは逆に胆管に造影剤を注入して、胆管や胆嚢(たんのう)の画像をX線で撮影します。膵管も映りますので、膵臓の病変の診断にも利用できます。
現在では胆道と膵管に関しては、CT検査やMRI検査でも診断に十分な画像を撮影できることから、主として胆道の閉塞を解除するための治療に際して実施されます。
□肝血管造影法
大腿部や肘窩の太い動脈に針を刺して、そこからカテーテルを入れて血流の逆に進め、大動脈からは肝動脈に挿入して、造影剤を注入して肝臓の血管をX線撮影する検査です。脾臓や小腸に向かう動脈に造影剤を注入すると、門脈の状態も撮影できます。血流の多い腫瘍を写し出す目的でおこないますが、肝動脈化学塞栓療法(TACE)などの治療に際しておこなうのが一般的です。
□肝硬度の測定
超音波やMRIを利用したエラストグラフィによって、肝臓の硬さや脂肪の量を数値であらわすことができます。保険適用があるのは超音波を利用したエラストグラフィで、もっとも用いられているのは肝臓に剪断(せんだん)波を当てて、その返ってくる速度と減衰の状況から、硬さと脂肪の量を評価する方法です。
■腹腔鏡と肝生検
腹部の皮膚に小さな穴をあけて、内部に内視鏡を挿入して、肝臓の表面を観察する検査が腹腔(ふくくう)鏡です。腹腔鏡は肝臓表面の観察のみでなく、胆石、肝がんなどの手術にも用いられています。また、腹部の皮膚から針を刺して、これを肝臓の内部に進めて、肝臓の組織を採取する検査が肝生検です。肝生検は腹腔鏡や超音波検査で、肝臓の穿刺(せんし)部を確認しておこないます。肝生検で採取した肝組織は、顕微鏡で観察して肝臓病の診断をおこないます。非アルコール性脂肪肝炎、自己免疫性肝炎、原発性胆汁性胆管炎などの確定診断には肝生検が必要です。
■肝臓がこわれている程度を反映する検査:肝逸脱酵素
肝臓の細胞(肝細胞)の中には、さまざまな物質をつくったり、解毒、排泄したりするために、多数の酵素があります。肝臓がこわれると酵素は血中に流れ出ますが、これらを肝逸脱酵素と呼び、その血中の量は、肝臓がこわれている程度を反映します。
肝逸脱酵素としては、一般にアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)とアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)を測定します。いずれも肝臓の細胞には大量に含まれていますが、ほかの臓器では細胞内の量が少ないため、これらの血中の値が高値の場合は、肝臓がこわれていると考えられます。健常人では血中のALT値はAST値より低く、ALT値は女性では20単位、男性では25単位を超えることがありません。どの医療機関でも、これら酵素の基準値上限は、より高く設定されています。このため基準範囲内であっても、ALT値がAST値より高い場合や、女性で20単位、男性で25単位を超える場合には肝臓病を疑います。ASTやALTの値が高いほど、肝臓の炎症は高度であり、急性肝炎ではこれらが1000単位以上になるのも珍しくありません。
乳酸脱水素酵素(LDH)も逸脱酵素として測定します。LDHは肝臓以外の臓器の細胞にも含まれています。このため溶血性貧血など肝臓以外の病気でも血清LDH値が高くなります。急性肝炎ではAST、ALTとともにLDHも高値になりますが、悪性腫瘍の肝転移など肝障害の原因が特殊な場合に、特に高値を示します。
■胆汁の流れやすさを反映する検査:胆道系酵素
胆汁の流れがわるくなると、血中に出てくる酵素です。ガンマ-グルタミルトランスペプチダーゼ(γ-GTP)、アルカリホスファターゼ(ALP)、ロイシンアミノペプチダーゼ(LAP)の3種類があります。γ-GTPは飲酒すると肝臓の細胞内で量がふえるため、アルコール性肝障害では胆汁の流れがわるくなくても高値になります。ALPは骨の細胞にも含まれており、骨の病気でも上昇します。また、血液型がB型ないしO型の場合は、小腸からALPが血中に分泌される場合があります。このためALPが高値であっても、必ずしも病気とは限りません。
■肝臓の機能がどれくらい悪化しているかを反映する検査
肝臓の機能として重要なのは、からだに必要なさまざまな物質をつくることと(合成能)、不要なものや有害なものを解毒して排泄することです(解毒・排泄能)。これらつくられたり処理されたりする物質の量を血中で測定することで、肝臓の合成能と解毒・排泄能がわかります。
□合成能
アルブミン、コリンエステラーゼなどのたんぱく、コレステロールなどの脂質は肝臓の細胞がつくっており、その血中濃度は肝臓の合成能を反映しています。また、プロトロンビン時間は肝臓がつくっている血液凝固因子の量を反映しており、これも合成能に関する検査です。
□解毒・排泄能
ビリルビンは肝臓の細胞(肝細胞)に取り込まれ、その中で処理されたのち、胆汁中へと排泄されます。このためビリルビンの血中濃度は、肝臓の解毒・排泄能を反映しています。血中には、肝臓で処理される前の非抱合型ビリルビンと、処理されたのちの抱合型ビリルビンの両方があります。通常はビリルビン全体(総ビリルビン)と抱合型ビリルビン(直接型ビリルビン)を測定して、その差から非抱合型ビリルビン(間接型ビリルビン)の量を計算しています。
なお、ビリルビンの濃度は、胆汁の流れがわるくなったり、溶血性貧血でできる量がふえたりしても高値になります。これら病態と区別するためには、胆道系酵素や直接型ビリルビンと間接型ビリルビンの比率を見ます。
■肝臓がどのくらい硬くなっているかを反映する検査
肝臓は比較的やわらかい臓器ですが、機能が低下する過程で硬くなってきます(肝線維化)。肝臓が硬くなると、門脈の血管内圧が高くなり(門脈圧亢進)、その結果、脾(ひ)臓が大きくなります(脾腫)。このため肝臓の硬さや門脈圧亢進の程度を反映する検査も、肝臓の病気がどのくらい進んでいるかを調べる際に、利用されます。
□肝線維化の程度
肝臓が硬くなると、肝臓にある糖たんぱくであるMac2結合たんぱくの糖鎖が、肝臓がやわらかい場合とは変わります。この変化の程度を見るのが、Mac2結合たんぱく糖鎖異性体(M2BPGi)の測定で、その値は肝臓が硬くなった程度や、肝がんができるリスクを反映しています。血小板がつくっているオートタキシンや、肝臓にたまる線維の一種であるⅣ型コラゲンなども肝線維化の程度を反映し、肝臓の硬さの評価に用いられます。
□門脈圧亢進の程度
脾臓が大きくなると、赤血球、白血球、血小板などの血球がたくさんこわされて、これらの血中での量は減少します。特に血小板数の低下は、肝臓の硬さ、門脈圧亢進の程度を反映しており、脂肪肝以外の肝疾患では11~13万/mm3、脂肪肝では20万/mm3を下回ると、肝硬変になっている可能性があります。
門脈圧が高くなると、食道胃静脈瘤など肝臓を素通りする側副血行路が発達し、腸内の細菌がつくったアンモニアが肝臓で処理されず、その血中濃度が上昇します。このためアンモニアも門脈圧亢進を反映する検査値です。また、アンモニアが高値になると、肝臓の代わりに筋肉がバリン、ロイシン、イソロイシンなどの分岐鎖アミノ酸を利用してアンモニアを処理します。このため、分岐鎖アミノ酸と肝臓で利用されるアミノ酸であるチロシンの比率(BTR)も門脈圧亢進の程度を反映しています。
なお、腸管からはアンモニア以外にさまざまな物質が門脈に入ってきます。側副血行路ができると、これらが肝臓で処理されないため、異物に対する免疫反応が起こります。このため肝硬変では、リンパ球がつくっているγ-グロブリンや、その成分であるIgGなどが血中で高値になります。ただし、これらは自己免疫性肝炎など免疫の異常による肝疾患でも高値になることに留意する必要があります。
□FIB-4インデックス
肝線維化が進むと、肝臓の細胞内のALT量が減り、血中ではALTに対するASTの比率が高くなります。また、血小板数は低値になり、高齢になるに従って、肝線維化の進行は早くなります。このため年齢、AST値、ALT値、血小板数からFIB-4インデックスを計算し、肝臓の硬さ、肝がんができるリスクを評価します。FIB-4インデックスの計算アプリには、日本肝臓学会のホームページからアクセスできます( FIB-4 index計算サイトのご案内(EAファーマ提供)(医療従事者向け))。肥満、糖尿病による脂肪肝では、FIB-4インデックス1.3以上の場合は肝線維化が起こっている可能性があり、2.66を超える場合は肝硬変になっているかどうかの精査が必要です。そのほかの肝疾患では、3.25以上の場合は肝硬変になっている可能性があります。
■肝がんの腫瘍マーカー
肝臓にできるがんの大部分は肝細胞がんですが、このがんがつくっているα-フェトプロテイン(AFP)やPIVKA-Ⅱ(ピブカ・ツー)を血中で測定することで、がんができているかどうかを評価できます。ただし、これら腫瘍マーカーは、肝細胞がんが一定の大きさにならないと上昇しないことが多く、肝がんの早期発見には超音波検査などの画像診断が必要です。むしろ腫瘍マーカーは、治療効果の判定や治療後の再発の診断などに用いられます。
□AFP
胎児の肝臓がつくっているアルブミンで、健常人の血中にはありませんが、肝細胞がんの患者さんの80%ぐらいで認められます。慢性肝炎や肝硬変の患者さんでも軽度の上昇がみられますが、高値の場合は肝細胞がんを疑います。AFPは糖鎖のついたたんぱくで、糖鎖の種類を見ることで、正常な肝臓がつくっているのか、がんがつくっているのかを区別できます。AFPのL3分画が見られる場合は、肝がんが存在する可能性が高くなります。
□PIVKA-II
血液凝固因子のプロトロンビンは、ビタミンKがはたらくと血液を凝固させる機能を発揮できるようになります。しかし、肝細胞がんは凝固機能を発揮できないプロトロンビンであるPIVKA-IIをつくっている場合があります。肝細胞がんの患者さんの60%ぐらいで血中に認められます。AFPが上昇していない患者さんでも、PIVKA-IIが上昇している場合があり、肝がんのリスクの高い患者さんでは、両腫瘍マーカーをともに測定します。しかし、ビタミンKが不足したり、血液が固まるのを抑えるワルファリンのような薬を飲んでいたりする場合には、がんがなくてもPIVKA-IIが高値になることに注意が必要です。
■肝臓病の成因の検査
肝臓病は成因は肝炎ウイルス、自己免疫、肥満、飲酒など多彩ですが、まず、肝炎ウイルスの感染と自己免疫性の異常があるかどうかを、血液検査で調べます。
□A型肝炎ウイルス(HAV)とE型肝炎ウイルス(HEV)
HAVの感染はIgM型のHAV抗体、HEVの感染はIgA型のHEV抗体で調べます。いずれも最近感染した場合に陽性となり、急性肝炎の患者さんの成因の検査で測定します。
□B型肝炎ウイルス(HBV)
HBVが感染しているかどうかは、ウイルスの表面にあるたんぱくであるHBs抗原の有無で調べます。HBVは感染すると肝臓の中に遺伝子が生涯にわたって残存し、消えることはありません。出生時など幼少期に感染すると、血中にウイルスが長期間みられるキャリアになり、慢性肝炎、肝硬変、肝がんの原因になります。いっぽう、成人になってから感染すると急性肝炎を発症しますが、血中からはウイルスが消えて、肝臓の中にはウイルスは残っていても病気は治った状態になります。病気がどのような状態にあるのかを調べるためには、HBc抗体、IgM型のHBc抗体、HBs抗体、HBe抗原、HBe抗体などを測定します。また、HBVにはすこしだけ遺伝子が異なるさまざまなタイプのウイルスがあり、これをあきらかにするために遺伝子型(ジェノタイプ)を調べる場合もあります。治療の必要性やその効果を評価するためには、ウイルスの遺伝子量であるHBV-DNA量や、HBs抗原量、HBコア関連(cr)抗原量なども測定します。
□C型肝炎ウイルス(HCV)
HCVが感染しているかどうかは、HCV抗体を測定することで調べます。しかし、HCVは感染しても20~30%の患者さんでは自然経過でウイルスがいなくなります。このためHCV抗体が陽性でもウイルスが存在するとは断言できませんので、HCV抗体が陽性の場合はウイルスの遺伝子であるHCV-RNAの有無を調べます。どのような治療をおこなうかを決めるためには、HCV-RNA量だけではなく、遺伝子型(ジェノタイプ)を反映する血清型(セログループ)も測定し、肝機能がどの程度低下しているかなども参考にします。
□自己免疫性
自己免疫性肝炎では抗核抗体とリンパ球がつくるIgGが、原発性胆汁性胆管炎では抗ミトコンドリア抗体とリンパ球がつくるIgMが高値になる場合が多く、これらが成因の診断に用いられています。
■画像検査と肝硬度測定
肝臓病の種類や、病気の進み具合、肝がんの有無などを診断するためには、まず、超音波検査をおこない、必要に応じてCT、MRI、血管造影などの検査をおこないます。胆道系に異常がある場合には、消化管内視鏡下に胆管に造影剤を注入して、X線撮影する場合もあります。
□超音波(エコー)検査
超音波をからだの表面から当てて、反射波の返ってくる状況から、肝臓など臓器の内部構造を映像化する検査法です。通常は空腹時、できれば朝食をとる前に、皮膚表面にゼリーを塗って超音波が体内に入りやすいようにして、からだの断面を断層的に描き出します。なんの苦痛もなく、外来で簡単におこなえます。
脂肪肝の診断、慢性肝炎から肝硬変への病気の進み具合の評価、肝がんの早期発見と肝嚢胞などの良性腫瘤との区別、胆石や閉塞性黄疸の診断などに用いられます。肝生検、ラジオ波焼灼(しょうしゃく)療法など、肝臓に針を刺す検査や治療にも利用します。
□CT検査
CTはコンピュータ断層撮影(computed tomography)の頭文字で、X線を用いて肝臓を含むからだの輪切りの横断面や縦切りの縦断面を映し出します。造影剤を静脈注射してから撮影すると、血流がある部分が強調された画像を撮影することができ、腫瘤などの検出能が増します。また、造影剤を注射してから時間を変えて撮影をくり返すことで、腫瘤に流入する動脈や門脈の血流量が評価可能で、その状況から肝がんか血管腫のような良性の腫瘍かの区別も可能です。
□MRI検査
磁気共鳴現象を利用して、X線を用いないで、CTと同様にからだの断層像を映し出します。CTに比較して、MRIは肝腫瘍の種類を診断するために有用で、造影剤を用いないでも、血管や胆管などを描出することが可能です。肝臓の細胞に取り込まれる造影剤を静脈注射してから撮影すると、小さな肝がんの検出能が向上します。
□内視鏡的逆行性胆管膵管造影法(ERCP)
口から十二指腸まで進めた内視鏡の先端からチューブを出して、胆管が十二指腸に開口するところに挿入します。胆汁の流れとは逆に胆管に造影剤を注入して、胆管や胆嚢(たんのう)の画像をX線で撮影します。膵管も映りますので、膵臓の病変の診断にも利用できます。
現在では胆道と膵管に関しては、CT検査やMRI検査でも診断に十分な画像を撮影できることから、主として胆道の閉塞を解除するための治療に際して実施されます。
□肝血管造影法
大腿部や肘窩の太い動脈に針を刺して、そこからカテーテルを入れて血流の逆に進め、大動脈からは肝動脈に挿入して、造影剤を注入して肝臓の血管をX線撮影する検査です。脾臓や小腸に向かう動脈に造影剤を注入すると、門脈の状態も撮影できます。血流の多い腫瘍を写し出す目的でおこないますが、肝動脈化学塞栓療法(TACE)などの治療に際しておこなうのが一般的です。
□肝硬度の測定
超音波やMRIを利用したエラストグラフィによって、肝臓の硬さや脂肪の量を数値であらわすことができます。保険適用があるのは超音波を利用したエラストグラフィで、もっとも用いられているのは肝臓に剪断(せんだん)波を当てて、その返ってくる速度と減衰の状況から、硬さと脂肪の量を評価する方法です。
■腹腔鏡と肝生検
腹部の皮膚に小さな穴をあけて、内部に内視鏡を挿入して、肝臓の表面を観察する検査が腹腔(ふくくう)鏡です。腹腔鏡は肝臓表面の観察のみでなく、胆石、肝がんなどの手術にも用いられています。また、腹部の皮膚から針を刺して、これを肝臓の内部に進めて、肝臓の組織を採取する検査が肝生検です。肝生検は腹腔鏡や超音波検査で、肝臓の穿刺(せんし)部を確認しておこないます。肝生検で採取した肝組織は、顕微鏡で観察して肝臓病の診断をおこないます。非アルコール性脂肪肝炎、自己免疫性肝炎、原発性胆汁性胆管炎などの確定診断には肝生検が必要です。
(執筆・監修:埼玉医科大学 教授〔消化器内科・肝臓内科〕 持田 智)