急性膵炎、膵仮性嚢胞〔きゅうせいすいえん、すいかせいのうほう〕

 急性の炎症が膵臓に起こったもので、膵臓でできる膵液が活性化されて、膵臓自身や周辺組織が自己消化されて起こると考えられています。急性膵炎は、膵臓がはれるだけで比較的容易に回復するもの(間質性浮腫〈ふしゅ〉性膵炎)から、膵臓や周囲の組織に出血や壊死(えし)を起こすもの(壊死性膵炎)に大きく分けられ、その程度により軽症、重症に分類されます。重症の急性膵炎では、膵臓の炎症がほかの臓器にひろがり、多臓器不全という状態になり死に至ることがあります。
 膵仮性嚢胞は、急性膵炎や慢性膵炎の急性増悪により、膵液が膵臓の外に出て、たまった状態を指します。小さいものは自然に吸収されますが、大きくて腹痛や食べ物の通りがわるくなるなどの症状があるときは、治療をおこないます。

[急性膵炎の原因]
 急性膵炎の原因としては飲酒によるものがもっとも多く(アルコール性急性膵炎)、ついで多いのが胆石による胆石性急性膵炎です。そのほか、原因が特定できないもの(特発性急性膵炎)、手術、検査のあとに起こる膵炎、薬剤投与後や妊娠、高脂血症(脂質異常症)に伴う急性膵炎があります。

[急性膵炎の症状]
 急性膵炎でもっとも多い症状は持続する上腹部全体の激しい痛みです。消化管の動きがわるくなるので、嘔吐(おうと)や便秘がみられることが多く、腹部の圧痛など、腹膜炎の症状を呈することがあります。
 重症急性膵炎では、腹部症状だけでなく、血圧が低下してショック症状がみられることがあります。その際は、顔面や皮膚が蒼白となり、冷や汗を認め、意識状態がわるくなります。呼吸状態がわるくなったり、尿量が減少したり、肝機能がわるくなったりして、多臓器不全と呼ばれる状態になることがあります。膵臓やその周りの脂肪組織に壊死があると、発症して1~2週間後に細菌感染を起こすことがあり、その際は発熱などの症状がみられます。膵液が腹部の血管に障害を起こし、消化管や腹部に出血を起こすこともあります。

[急性膵炎の診断]
 尿や血液のアミラーゼなどの膵酵素値が非常に高くなること、腹部の症状、CT検査などで膵臓の炎症があることで診断されます。治療方針を決めるうえで重要なのは、重症か軽症かの判断で、重症度の判定は9項目からなる重症度判定基準とCT所見によっておこなわれます。

[急性膵炎の治療]
 軽症の場合は、数日間食事や水分摂取を控えることでよくなります。重症の場合、発症の初期には大量の輸液をおこなうことが多く、呼吸状態や腎臓の機能がわるくなっているときは、集中治療室(ICU)での管理が必要になります。出血がみられるときは、血管の中に管を入れて止血する処置(アンギオグラフィ)をおこないます。発症してしばらく経つと細菌感染を合併することがあり、感染物質を外に出すドレナージ、壊死物質を除去するネクロセクトミーと呼ばれる処置・手術が必要になることがあります。

(執筆・監修:自治医科大学外科学講座 主任教授〔消化器外科学〕 佐田 尚宏
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