脂質異常症(高脂血症)〔ししついじょうしょう(こうしけつしょう)〕 家庭の医学

 脂質異常症は、血液中のコレステロールや中性脂肪の量に異常が生じる病気です。以前は「高脂血症」と呼ばれましたが、悪玉のLDLコレステロールが高いタイプ、中性脂肪が高いタイプに加えて、善玉のHDLコレステロールが低いタイプも動脈硬化のリスクとなることから、改称されました。しかしながら、高LDLコレステロール血症や高トリグリセライド血症といった、脂質値が高くなる病態に対しては、いまでも「高脂血症」という診断名を使用されることもあります。
 コレステロールは本来、細胞を形成する成分として必要な物質です。しかし、量がふえ過ぎた状態が続くと動脈硬化の原因となります。自覚症状がないため、放置しておくと、脳梗塞や心筋梗塞などを引き起こすおそれもあるのです。脂質異常症とは、血液中の脂質、具体的にはLDLコレステロールや中性脂肪(代表的なものはトリグリセライド)が過剰な状態、あるいはHDLコレステロールが不足している状態のことです。
■LDLコレステロール
 悪名高い脂質として有名です。しかし、本来のはたらきは、コレステロールをからだのすみずみまで運ぶ運搬者として、とても大切なのです。ただし、一定量を超えると、血管をボロボロにする動脈硬化の原因となるため、「悪玉コレステロール」とも呼ばれています。
■中性脂肪
 またの名を「トリグリセライド(トリグリセリド)」と呼びます。中性脂肪と聞くと、わるいイメージがあるかもしれませんが、からだにとっては非常に重要な役割をもち、わたしたちが生きていくために欠かせない「エネルギー源」となっています。ただし、余分な中性脂肪は、おもに皮下脂肪にためられるため、血液中で一定量を超えると、肥満の原因にもなってしまいます。
■HDLコレステロール
 からだの中の余分なコレステロールを掃除機のように吸い込んで、肝臓へ回収する運搬者です。そのため、「善玉コレステロール」とも呼ばれています。
■non-HDLコレステロール
 動脈硬化を起こすさまざまなコレステロールを合計した値です。

[診断]
●脂質異常症の診断基準
LDLコレステロール140mg/dL以上高LDLコレステロール血症
120~139mg/dL境界域高LDLコレステロール血症**
HDLコレステロール40mg/dL未満低HDLコレステロール血症
トリグリセライド(TG)150mg/dL以上(空腹時採血高トリグリセライド血症
175mg/dL以上(随時採血
Non-HDLコレステロール170mg/dL以上高non-HDLコレステロール血症
150~169mg/dL境界域高non-HDLコレステロール血症**
*基本的に10時間以上の絶食を「空腹時」とする。ただし水やお茶などカロリーのない水分の摂取は可とする。空腹時であることが確認できない場合を「随時」とする。
**スクリーニングで境界域高LDL-C血症、境界域高non-HDL-C血症を示した場合は、高リスク病態がないか検討し、治療の必要性を考慮する。

(日本動脈硬化学会 編: 動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版,p22,2022)


[治療]
 脂質異常症は、動脈硬化疾患の危険因子の一つであり、糖尿病高血圧など他の危険因子とあわせて医師と治療の必要性を相談してください。通常は、ほかに重大な疾患のない人の場合、「食事療法」と「運動療法」などの生活習慣の改善を第一に取り組み、それでも十分でない場合には、「食事療法」や「運動療法」に加え「薬物療法」をおこないます。

1.食事療法
 食事療法では、適正体重を維持すること、および一人ひとりの活動量に適したカロリー量の摂取と栄養素のバランスを保つことが重要です。高LDLコレステロール血症の場合は、LDLコレステロールをふやしてしまう脂肪酸やコレステロールが含まれる食べ物の過剰な摂取は控えましょう。具体的には、脂肪が多く含まれる肉類や乳類、卵などです。食事療法は、食事内容と、調理方法を工夫することで、その効果は大きく変わってきます。
●主食の大盛りやおかわりをやめ、菓子類を減らしましょう。甘い飲み物や果物にも糖質は多く含まれるため、無糖の飲み物や甘味の控えめな果物にかえましょう。
●お肉は、その部位や種類によって、含まれるカロリーやコレステロールの量が違います。ささ身など、低カロリーのものを選ぶこと。また、調理するときには、なるべく脂身は包丁でカットしておきましょう。
●まぐろやさばなどの背中が青い魚には、コレステロール値を下げる脂肪酸が含まれています。人参やブロッコリー、カボチャなどの緑黄色野菜も、動脈硬化を予防するビタミンCを多く含んでいます。これらの食材は、積極的に食べるとよいでしょう。
●過度のアルコール摂取は血圧上昇、脳血管障害、肝機能障害などのリスクを増加させますが、アルコールの摂取を制限すると、中性脂肪(トリグリセライド)の合成が抑制されるので、アルコール摂取は25g/日以下に抑えるようにしましょう。

2.運動療法
 からだを動かすことで、さまざまな効果が出てきます。脂質異常症の原因となる物質を減らせるだけでなく、ふとりにくい体質になり肥満の予防につながります。また、他の生活習慣病の予防にもなるため、脂質異常症だけでなく、相乗的にさまざまなよい影響が出てくると考えられます。
●運動療法の基本は、有酸素運動を中心に、通常の速度のウオーキングにあたる運動の強さを目標に毎日合計30分以上、週3回以上はおこなうことが理想です。
●運動療法は、食事療法と同じく、長く続けることがとても大切です。個人差がありますので、程度としては、ご自身が「少ししんどいけれども、無理なく続けられる」というくらいが、ちょうどよいでしょう。整形外科など他の診療科を受診されている人は、どのような運動療法がふさわしいかを、主治医と相談してからはじめてください。

3.薬物療法
 食事療法や運動療法の生活習慣の改善を一定期間おこなっても、十分な脂質値(LDLコレステロールや中性脂肪など)の改善が得られない場合や、すでに心筋梗塞などの重要な動脈硬化疾患を発症している場合には、薬物療法が考慮されます。
 コレステロール低下薬は、合成阻害のHMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン製剤)や吸収阻害のエゼチミブがもっともよく使われます。中性脂肪低下薬にはフィブラート系薬剤がもっとも有効ですが、魚油からつくられたエイコサペンタエン酸や、ニコチン酸製剤も使用されます。HMG-CoA還元酵素阻害薬で効果不十分、またはHMG-CoA還元酵素阻害薬による治療が適さない場合、かつ、心血管系疾患の発現リスクが高い場合はPCSK9阻害薬という注射剤も適応となります。脂質異常症のタイプや、ほかに合併している疾患等に合わせて医師が治療薬を選択します。薬物による治療だけでは、脂質異常症の原因を取り除けるわけではありませんので、薬をのみ始めても、食事療法と運動療法はきっちりと続けましょう。

4.禁煙
 喫煙習慣は男女問わず、冠動脈疾患、脳血管障害等の危険因子であるばかりでなく、糖尿病、脂質異常症(HDLコレステロール低下)、メタボリックシンドロームの発症リスクを上昇させてしまうので、禁煙は必須です。禁煙治療は、一定の要件を満たす場合には保険適用となるため、主治医に相談しましょう。

(執筆・監修:東京女子医科大学 教授〔内科学講座 糖尿病代謝内科学分野〕 中神 朋子
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