靱帯損傷〔じんたいそんしょう〕

 多くはスポーツによる損傷で、前十字(ぜんじゅうじ)靱帯(ACL)、内側側副(ないそくそくふく)靱帯(MCL)、後十字(こうじゅうじ)靱帯(PCL)の順に多くみられます。前十字靱帯と内側側副靱帯の合併損傷も多くみられます。交通事故などの大きな外力で受傷した場合には複合靱帯損傷(2本以上の靱帯が損傷)のことが多く、周囲組織の広範な損傷を伴います。


■前十字靱帯(ACL)損傷
 単独損傷はスポーツ外傷がほとんどで、接触型の損傷と非接触型の損傷があります。
 接触型は、ほかのプレーヤーと接触するなどして膝(ひざ)関節に強い外力が加わり起こる損傷です。それに対して非接触型の損傷では、ジャンプやその着地、カッティング(サッカーなど)、急激なストップ動作などの際に、ひざが内側に入り外反強制されたときに損傷します。
 いずれの損傷でも、受傷時に本人が“バキッ”という断裂音を聞いていることがしばしばあります。


[症状]
 受傷直後には体重がかけられないほど痛み、時間とともに関節内の出血により膝関節がはれてさらに痛みが増していきます。整形外科を受診し、関節穿刺(せんし)を受けると50mL程度までの血液が排出されます。
 診断は、特徴的な受傷時のようすと断裂音、関節血腫(けっしゅ)の存在、膝関節の前方不安定性を示す診察所見、さらにMRI(磁気共鳴画像法)検査所見から、スポーツ専門医には容易です。さらに、MRIでは半月板やそのほかの靱帯、関節面の合併損傷の有無などが確認できますから、必須の検査です。

[治療]
 早期には局所のアイシングにより膝のはれを防ぎ、痛みが軽減したらひざの屈曲伸展の訓練をおこなってください。大腿四頭筋の萎縮(いしゅく)が必ず続発しますので、ひざの屈曲伸展が可能になれば、ハーフスクワットやマシンを用いたひざ周囲筋力強化をおこないます。1~2カ月の時間経過とともに痛みはほとんど消失し、ひざの動きも回復します。日常生活レベルの活動には問題がなくなります。
 その後、活動性が高い場合、すなわちスポーツを今後も継続したい場合やひざに負担がかかる仕事の場合には、手術的に靱帯再建をおこなう必要があります。再建術をおこなわないと、ひざが不安定性のために思いきりの動作ができませんし、無理にスポーツをすると半月板や関節軟骨に2次的な損傷が起こり、将来、変形性膝関節症になるリスクが高くなります。
 ACL再建手術は関節鏡を用いておこない、断裂した靱帯に代わる腱(けん)を移植します。移植腱には、同側の膝屈筋腱(ひざくっきんけん)や膝蓋腱(しつがいけん)を用いるのが一般的です。
 手術後には、筋力強化やスポーツ動作訓練などのアスレティックリハビリテーションをおこない、スポーツ完全復帰まで6~8カ月を要します。

 いっぽう、手術をしない治療を選んだ場合には、ジャンプやカッティング動作、ひねりの動作など、自分でこわいと思う動作を徹底的に避けること、および筋力強化訓練の継続が必要です。ジョギングや水泳程度のスポーツは可能になります。
 受傷時に診断がつかず、時間がたってから診断がついた場合でも、治療の考えかたは同じです。ただ、最初の受傷から時間経過が長い場合には半月板などの合併損傷の率が高くなりますから、MRI検査で調べて、必要な治療を受けなければなりません。
 また、靱帯の付着部が骨片つきで剥離(はくり)するタイプの損傷もありますが、これは骨折の治療に準じて、早期に元の位置に骨片を戻して固定すれば靱帯機能は回復します。

■内側側副靱帯(MCL)損傷
 ひざの外側からの強い外力が加わり外反強制され、ひざの内側に走るMCLが断裂します。断裂時には、断裂感を本人が感じることがあります。
 大腿側の起始部での損傷が多く、膝関節内側の近位部に痛みがあります。程度は捻挫程度のものから内側の関節支持機構が完全に断裂するものまであり、後者は交通事故などの強大な外力が加わった場合にみられ、ほかに半月板や前十字靱帯、後十字靱帯などにも損傷が及んでいることもしばしばです。

[治療]
 弾性包帯によるひざの固定やブレース(関節装具)などを用いた保存療法(手術をせずに修復されるのをまつ)が基本ですが、重度損傷の場合には早期の手術療法が必要となることもあります。また、初期に保存療法が選択された場合でも、のちに機能不全が残存した場合(機能的に障害が残った場合)には、再建術がおこなわれる場合もあります。
 靱帯の付着部が骨片つきで剥離した損傷では、骨片を元の位置に戻して固定すれば靱帯機能は回復します。

■後十字靱帯(PCL)損傷
 スポーツや交通事故などで、ひざを前方から強打して受傷することがほとんどです。仰臥位(ぎょうがい:仰向け)で両ひざを立てて横からすねの骨の高さを見くらべ、損傷側の高さが低ければ後十字靱帯の損傷の可能性が考えられます。
 確定診断には、ストレスX線検査(ひざに手や器具で圧力をかけ、ずれをあえて生じさせてX線撮影をする)やMRI検査が有用です。
 治療としては、ひざ周囲筋力の強化だけで日常生活では支障が出ないことが多いのですが、痛みやひざ不安定性のために靱帯再建術が必要になる場合もあります。PCL再建術はACL再建術と同様に、関節鏡を用いておこない、腱を移植します。
 また、PCL脛骨付着部が骨片つきで剥離した損傷では、受傷後早期に手術的に骨片を元の位置に戻して固定すれば靱帯機能は回復します。

■半月板損傷
 半月板は、関節内の大腿骨と脛骨(けいこつ)の間にある線維軟骨性のクッションで、その損傷は若年者ではスポーツによる損傷が、中高年では変性断裂(年齢による劣化)が主です。ACL損傷を放置した場合には、内側半月の断裂が二次的に起こることがよくあります。また、生まれつき外側半月板が特殊な形態をしていることで損傷が起こりやすいことがあり、このようなものを円板状半月といいます。

[症状]
 半月損傷の部位に一致した痛み、引っかかり感があり、損傷が大きな場合には損傷半月が反転して引っかかり、ひざの伸展障害が出ることがあります。

[治療]
 疼痛(とうつう)や機能障害の程度により、筋力強化による保存療法、または関節鏡手術による半月板の切除術や縫合(ほうごう)術がおこなわれます。現在の手術治療の基本的な考えかたは、縫合によってなるべく半月板を残し、隣接する関節軟骨への影響を少なくすることです。
 円板状半月の治療は関節鏡で形成的切除縫合術(半月板が正常に近い形態になるように部分的に切除し、必要に応じて縫合術を追加する)をおこないます。また、O脚、またはX脚の傾向が強く、半月板に対する関節鏡視下縫合手術だけでは効果が不十分と考えられる場合には、膝周囲の骨切り術を同時におこなう場合もあります。

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