足の悩み、一挙解決

タイプを見極め、しっかり治す 捻挫(足のクリニック表参道 菊池恭太医師) 【PART2】第11回

 【桑原靖院長】足のクリニックでは、院長のほかに専門分野の異なる7人の医師が診療を行っています。ひと口に足の病気といっても、外反母趾(ぼし)、強剛母趾など骨格の異常によるもの、糖尿病の足病変、リウマチによる足の変形、スポーツ障害など、それぞれ原因やアプローチが異なるので、それに応じた専門の医師がいます。今回から2回にわたり、スポーツ障害の中でも一般の方々にも起こりやすい、捻挫と疲労骨折について、菊池恭太医師に語ってもらいます。

初期の対応が重要な捻挫【時事通信社】

初期の対応が重要な捻挫【時事通信社】

 ◇初期の対応を間違えると、治りが悪くなることも

 【菊池恭太医師】運動中に足首をひねった、段差につまずいて足をくじいた、という場合、「多分、捻挫だろう。骨は折れていないから大丈夫」と軽く考えてしまうことはありませんか?

 捻挫は初期の対応を間違えると、治りが悪くなって、いつまでも痛みが続くこともあります。足のクリニックにも、「捻挫は治ったはずなのに、痛みがなくならない」という患者さんが多く受診します。また、しっかり治療をしておかないと、捻挫を繰り返して、骨折などの2次障害を起こしやすくなります。そこで、捻挫の適切な初期対応の仕方とタイプによって異なる治療法について解説します。

 ◇捻挫のタイプとは

 捻挫とは本来動く生理的な関節の可動範囲を超えて無理にひねったものの総称です。このため靭帯(じんたい)損傷も含まれますが、骨折は除外されます。手首や肩、膝、指など、どの関節にも起こりますが、最も頻度が高いのが足首です。

 足首の関節は、爪先が上に上がっている状態(背屈位)だと形態的に安定します。ところが、爪先立ちで足先が下がっている状態(底屈位)のときは、解剖学的に骨同士の隙間が大きくなるため、特に横方向の動きに対して不安定になります。例えばヒールを履いているときや、スポーツでも爪先を伸ばした状態のときには足首が不安定となりやすいため捻挫しやすくなるのです。

 ひと口に捻挫と言っても、ひねっただけで靱帯に損傷はないものから、靱帯が部分的に切れているもの、靱帯が完全に切れているものまでさまざまです。

 ◇捻挫しやすい人は

 カッティング動作(つまり素早い方向転換)が多いもの、爪先立ちや爪先を下に下げる(足関節底屈位)動きが多いものなど、特にサッカーやバスケットなどは捻挫しやすいスポーツの代表格と言えるでしょう。もちろん、日常生活でも、つまずいたり、転んだりすれば、誰でも捻挫することはありますが、スポーツなどで活動性が高ければ高いほど、捻挫するきっかけが多くなります。また、もともと足首が横方向に柔らかいタイプの人も見られます。

足首の捻挫にRICEで対応した様子(足のクリニック表参道提供)

足首の捻挫にRICEで対応した様子(足のクリニック表参道提供)

 ◇初期対応は「RICE」

 捻挫をはじめとしたスポーツ障害の急性期の対応は、RICEが基本です。RがRest(安静)、IがIcing(冷却)、CがCompression(圧迫)、EはElevation(挙上)です。まずは安静にして氷などで患部を冷やし、腫れを抑えるために圧迫して患部に血流が行き過ぎないよう、足先を心臓より高い位置に上げます。この処置によって、急性炎症を鎮めます。ここまでは自分でできる対応です。身近な人が捻挫したときのためにも、覚えておくといいでしょう。

 ここで、ただの捻挫と素人判断するのは早計です。確実に治すためには、医療機関を受診して、捻挫の程度を正確に診断してもらい、それに合った治療法を選択することが重要です。

捻挫した足首のレントゲン画像。左側は通常の状態だが、右側は捻挫したときの状況を再現したストレス撮影で、靭帯が伸びているのが分かる(足のクリニック表参道提供)

捻挫した足首のレントゲン画像。左側は通常の状態だが、右側は捻挫したときの状況を再現したストレス撮影で、靭帯が伸びているのが分かる(足のクリニック表参道提供)

 ◇レントゲン、エコー、MRIで評価

 医療機関では、問診、触診のあと、レントゲンで骨折の有無を、超音波検査(エコー)で靭帯損傷の有無を、MRIでは靱帯損傷や微細な骨の異常の有無を確認します。

 靭帯損傷がある場合、部分的な断裂なのか完全な断裂なのかを診断します。またレントゲン撮影時に捻挫を再現するように、関節をグッとひねった状態をつくってから撮影するストレス撮影という方法があります。ストレス撮影で関節の隙間が極端に開いていれば靱帯損傷など、靱帯が機能していないことが分かります。しかし、もともとの緩さや過去の靱帯損傷の影響を受けている可能性もあります。

 ◇重症度に応じた治療

 診断がついて骨折も靭帯損傷もないことが分かった場合は、RICE療法のみで、消炎鎮痛剤の飲み薬や湿布薬を処方して、痛みが引くのを待ちます。

 靭帯損傷だった場合は、RICE療法に加えて、シーネ固定を中等度のものなら1週間程度、重度のものなら3週間程度行い、痛みと腫れが治まるのを待ちます。その後は機能装具に変えて4~6週間くらいの期間使います。機能装具は、足首を完全に固定するのではなく、足首の横にひねる動きは抑えて、縦の動きはできるような状態をつくります。固定するより動きの中で靱帯を治していく方が、より自然に治ります。靱帯は、基本的に普段、動きの中で使われているものだからです。固定して、いつまでも動かさずにいると、代謝が落ちてしまい、治りが遅くなってしまいますから、積極的に動かしながら治していきましょう。

 ◇リハビリで機能を復活させる

 関節や靱帯組織に位置感覚の感覚受容器(レセプター)があるため、そこを損傷すると、バランス能力も落ちてしまいます。とくにハイレベルなスポーツをしている人では、可動域訓練、バランス訓練などのリハビリテーションが必須になります。

正常な前距腓靭帯(上)と損傷した前距腓靭帯(下)のエコー画像。前距腓靭帯は足関節外側靭帯のひとつで、足首を内側にひねった捻挫で損傷することが多い。損傷した靭帯のエコー画像は、輪郭が不明瞭になっている(足のクリニック表参道提供)

正常な前距腓靭帯(上)と損傷した前距腓靭帯(下)のエコー画像。前距腓靭帯は足関節外側靭帯のひとつで、足首を内側にひねった捻挫で損傷することが多い。損傷した靭帯のエコー画像は、輪郭が不明瞭になっている(足のクリニック表参道提供)

 ◇アスリートは手術を検討

 捻挫による靱帯損傷の治療は、保存治療が基本ですが、治療技術の進歩に伴い、高いレベルのアスリートに対しては靱帯修復手術を行うケースも増えてきています。

 靱帯が切れて緩みが残ってしまうようなひどい靭帯損傷があったものは、保存治療でも緩みが残ってしまうこともあり得るので、より積極的に治療をしようということです。

 靱帯の緩みが残ると、再び捻挫しやすくなり、繰り返すうちに骨折に至るなど、2次損傷を起こすリスクも増えます。

 手術後、1週間以内に機能装具をつけた状態で歩行を開始し、通常は1~2カ月くらいでスポーツへの復帰が可能です。

 ◇3カ月後も痛みが残る、疼痛遺残

 足のクリニックでは、捻挫した直後の急性期の患者さんより、治ったはずなのに、3カ月くらいたっても痛みが残る、捻挫後の疼痛遺残で受診される方が多いです。

 主な原因は、足首の靱帯が緩んでグラグラした状態のために痛みが残ってしまう足関節不安定症です。日常生活やスポーツに支障を来すレベルの痛みが続く場合は、靱帯を修復したり作り直したりする靱帯再建手術を考慮します。

 また、捻挫後によくある合併症として、ごく一部の骨に部分的な壊死が起こる距骨骨軟骨損傷という病気があります。捻挫で負傷した後も体重が乗って過重が続くと、日々の外力に負けてしまって、骨の修復が追いつかずに骨が死んでいく。それが局所的に1センチくらいの範囲で起こることがあります。MRIやレントゲンで慎重に経過をみて、治らない場合は手術を検討します。

 その他、捻挫後に痛みが残っている場合、考えなければいけない病気に、先天的に関節の骨同士がくっついている足根骨癒合(ゆごう)症があります。先天的な病気ですが、症状が出ないまま経過し、癒合症をきっかけに難治性の痛みが出てくる場合があります。

 このように、ひと口に捻挫といっても、その内容を見極めて適切な治療を行わないと、痛みが続いたり、2次障害を起こしたりする危険性があります。捻挫したら決して自己判断せず、整形外科での診察をお勧めます。(文・構成 ジャーナリスト・中山あゆみ)

菊池恭太医師

菊池恭太医師


 菊池 恭太(きくち きょうた)氏
 2002年北里大学医学部卒業、足のクリニック表参道非常勤医師。横浜総合病院整形外科医長を経て、16年から下北沢病院整形外科足病総合センター長。北里大学病院整形外科足外来非常勤医師、杏林大学附属病院形成外科足外来非常勤講師。日本整形外科学会専門医、日本フットケア足病医学会評議員。

   【足のクリニック表参道 桑原靖院長プロフィル】  






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