職業性頸肩腕障害(キーパンチャー病)〔しょくぎょうせいけいけんわんしょうがい(きーぱんちゃーびょう)〕

 1960年代にキーパンチャーやタイピストなど事務機械を取り扱う作業者に手指、腕、肩、くび(頸)にこり、しびれ、痛みなどのうったえが多発し、そのつらさのためにメンタルを病み、自殺に至る場合も少なからずありました。昔から上肢を反復使用する作業では、けいれん(書痙〈しょけい〉)や腱鞘炎(けんしょうえん)の発生は知られており、整形外科では頸肩腕症候群の診断名がありました。
 しかし、キーパンチャーなどの障害では炎症症状はほとんどみられず、手指や腕の弱い筋力を超えた強い運動負荷というより、作業中は手指をキーボード上に静的に保持する(置いたままでいる)ことの負荷が主で、鎮痛薬などによる臨床医学的な対処ではほとんど効果がありませんでした。
 そこで日本産業衛生学会は職業性頸肩腕障害という新たな病名を与え、職場の発症原因を取り除くよう提案しました。具体的には、1日のキータッチ数に上限を設けるなどの作業負荷量の低減、連続作業時間の制限、休憩時間の一斉取得、作業台の配置や照明の改善、横になれる休憩室などです。当時の労働省の指導などで対策が実施された結果、苦痛をうったえる人の数は大幅に減少しました。

【参照】
 外傷[創傷]:キーパンチャー病(職業性頸肩腕障害)

(執筆・監修:帝京大学 名誉教授〔公衆衛生学〕 矢野 栄二)
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