その他の化学物質による健康障害
□有機フッ素化合物(PFAS)
化学構造のなかにフッ素をもつ有機物を総称してPFASと呼び数千種類以上の物質がそこに含まれます。PFASの性質は物質によりさまざまですが、熱に強い、水や油をはじく、燃えにくい、汚れを防止するなど、生活に有用な機能をもつものが多くあります。そこで身のまわりでは、フライパンの焦げ付き防止のための表面処理剤、消火器の中の消火剤、衣類や傘などに使う撥水(はっすい)スプレー、自動車の外装コーティングなど、さまざまな用途に用いられています。PFASの健康への影響はまだ十分わかっていませんが、米国の研究では動脈硬化につながる脂質異常、免疫異常、腎臓がん、乳児・胎児の成長発達障害の可能性が指摘されています。PFASはフッ素と炭素が非常に強力に結びついた構造をしており、自然界では分解されず海や土壌に堆積して環境中に長期間残存し続けます。人は飲み水からPFASを摂取する可能性が高く、米軍基地周辺での消火剤による地下水汚染が問題になっています。また、レインコートなどの衣類への撥水スプレーを噴霧する際にPFASを吸引してしまい、肺に障害を起こすこともあります。こうしたスプレーの容器には使用上の指示が書かれていますが、急性の呼吸器障害を避けるために、けっして屋内では使用しない、マスクを着用、風の向きを考慮してスプレーを吸い込まないようにする、などの注意が必要です。
□1・2ジクロロプロパン
1990年代、大阪の印刷工場のオフセット印刷校正作業をしていた作業者33人のうち17人から胆管がんがみつかり、その原因が規制されていない1・2ジクロロプロパンであることがわかりました。このことをきっかけに全国の印刷工場で調査がおこなわれ、さらに多数の患者がみつかりました。この日本からの報告の結果、国際がん研究機関は1・2ジクロロプロパンをヒトに対する発がん性があきらかな物質のリストに加えました。
□芳香族アミノ、ニトロ化合物
これらベンゼン環に簡単な窒素化合物が付いた構造の物質は染料や医薬品などに使われていますが、類似のものが多数あり、その一部はその取り扱い工場で膀胱(ぼうこう)がんの多発が知られ、規制されていました。しかし2016年に規制のなかった新たな類似物質オルト-トルイジンにより、北陸の工場での膀胱がんの多発が報告されました。
いま人類は数万の化学物質を取り扱っているといわれますが、法律でその取り扱いが規定されているのはわずか百余りです。これらの物質については管理の仕方や曝露(ばくろ)される労働者の特別の健康診断まで細かく規定されていますが、それ以外は野放しです。しかし法律で規制されていないということは安全ということではありません。実際事業所などでは、規制のある物質と似た作用をもつので危険性が懸念されていても、規制リストにない物質に替えて、管理の手間を省こうとする場合があります。それでは上記のような事件は今後も起こる可能性があります。いま危険性が調べられているものが数百物質あるので、厚生労働省は、さしあたりこれらの物質については、まだ規制がされていなくても事業者に、危険性または有害性の調査(リスクアセスメント)を義務づけるよう大きく方針転換しようとしています。こうした大きな制度改定には時間がかかりますが、安全と健康のためには職場で化学物質を取り扱うときは、規制物質のリストに入っていなくても、いまから「危険な物質である可能性がある」という前提で、吸入や接触がないよう心掛けるとともに、心身に異常を感じたときは、それと業務の関連性を考慮に入れることが重要です。
化学構造のなかにフッ素をもつ有機物を総称してPFASと呼び数千種類以上の物質がそこに含まれます。PFASの性質は物質によりさまざまですが、熱に強い、水や油をはじく、燃えにくい、汚れを防止するなど、生活に有用な機能をもつものが多くあります。そこで身のまわりでは、フライパンの焦げ付き防止のための表面処理剤、消火器の中の消火剤、衣類や傘などに使う撥水(はっすい)スプレー、自動車の外装コーティングなど、さまざまな用途に用いられています。PFASの健康への影響はまだ十分わかっていませんが、米国の研究では動脈硬化につながる脂質異常、免疫異常、腎臓がん、乳児・胎児の成長発達障害の可能性が指摘されています。PFASはフッ素と炭素が非常に強力に結びついた構造をしており、自然界では分解されず海や土壌に堆積して環境中に長期間残存し続けます。人は飲み水からPFASを摂取する可能性が高く、米軍基地周辺での消火剤による地下水汚染が問題になっています。また、レインコートなどの衣類への撥水スプレーを噴霧する際にPFASを吸引してしまい、肺に障害を起こすこともあります。こうしたスプレーの容器には使用上の指示が書かれていますが、急性の呼吸器障害を避けるために、けっして屋内では使用しない、マスクを着用、風の向きを考慮してスプレーを吸い込まないようにする、などの注意が必要です。
□1・2ジクロロプロパン
1990年代、大阪の印刷工場のオフセット印刷校正作業をしていた作業者33人のうち17人から胆管がんがみつかり、その原因が規制されていない1・2ジクロロプロパンであることがわかりました。このことをきっかけに全国の印刷工場で調査がおこなわれ、さらに多数の患者がみつかりました。この日本からの報告の結果、国際がん研究機関は1・2ジクロロプロパンをヒトに対する発がん性があきらかな物質のリストに加えました。
□芳香族アミノ、ニトロ化合物
これらベンゼン環に簡単な窒素化合物が付いた構造の物質は染料や医薬品などに使われていますが、類似のものが多数あり、その一部はその取り扱い工場で膀胱(ぼうこう)がんの多発が知られ、規制されていました。しかし2016年に規制のなかった新たな類似物質オルト-トルイジンにより、北陸の工場での膀胱がんの多発が報告されました。
いま人類は数万の化学物質を取り扱っているといわれますが、法律でその取り扱いが規定されているのはわずか百余りです。これらの物質については管理の仕方や曝露(ばくろ)される労働者の特別の健康診断まで細かく規定されていますが、それ以外は野放しです。しかし法律で規制されていないということは安全ということではありません。実際事業所などでは、規制のある物質と似た作用をもつので危険性が懸念されていても、規制リストにない物質に替えて、管理の手間を省こうとする場合があります。それでは上記のような事件は今後も起こる可能性があります。いま危険性が調べられているものが数百物質あるので、厚生労働省は、さしあたりこれらの物質については、まだ規制がされていなくても事業者に、危険性または有害性の調査(リスクアセスメント)を義務づけるよう大きく方針転換しようとしています。こうした大きな制度改定には時間がかかりますが、安全と健康のためには職場で化学物質を取り扱うときは、規制物質のリストに入っていなくても、いまから「危険な物質である可能性がある」という前提で、吸入や接触がないよう心掛けるとともに、心身に異常を感じたときは、それと業務の関連性を考慮に入れることが重要です。
(執筆・監修:帝京大学 名誉教授〔公衆衛生学〕 矢野 栄二)