有機溶剤による中毒 家庭の医学

 お酒の主成分であるエチルアルコールも有機溶剤の一種ですが、お酒の飲みすぎで経験するように、有機溶剤は一般に肝障害と中枢(ちゅうすう)神経のまひを起こします。また有機溶剤は油をよく溶かすので、皮膚の保護作用をもつ皮脂も溶かし、皮膚炎をひき起こします。こうした有機溶剤一般に共通する毒性に加えて、それぞれの溶剤に特徴的な毒性もあります。
 50年ほど前、サンダル工場で、底板を貼る接着剤に使われていたベンゼンにより、骨髄(こつずい)の造血機能が障害されるための再生不良性貧血が多発したことがあります。またベンゼンは、白血病とも関係する可能性があります。そこで替わって、ノルマルヘキサンという有機溶剤を使うようにしたところ、こんどは手足の先からしだいにしびれがひろがる末梢神経障害が報告されました。ある物質が有害だからといって他の物質に取り替えたら別の害が出てきた例としてよく知られた事例で、有害物対策における重要な教訓となっています。
 化学繊維工場で使われる二硫化炭素は動脈硬化をひき起こし、目の網膜の障害や心筋梗塞の増加があります。このほかクロロホルムや四塩化炭素など塩素系有機溶剤では、特に肝臓の障害が問題になり、肝臓がんをひき起こす懸念もあります。

【参照】
 こころの病気:有機溶剤

(執筆・監修:帝京大学 名誉教授〔公衆衛生学〕 矢野 栄二)
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