こころのおもな病気 家庭の医学

コラム

パラノイア

 統合失調症に近い病気で、特定の妄想をもっている以外はなんの異常もみられない状態をいいます。つまり、妄想はもっていても、そのことに触れなければ人とのコミュニケーションは正常であり、行動面の問題もありません。
 妄想には、迫害妄想、宗教妄想、血統妄想、恋愛妄想などがあります。妄想に反対するものに対して立ち向かうという特徴があります。自分の権利が侵害されたと信じ込み、執拗に相手をうったえるというのが一例です。パラノイアはまれな病気と考えられていました。しかし、諸事件を起こしたオウム真理教の麻原教祖が、宗教妄想や迫害妄想をもったパラノイアではないかといった論調がみられたりしました。
 またストーカーが社会の注目を浴びていますが、そのような人のなかには、恋愛妄想をもったパラノイアが含まれているという見解もあります。このように、パラノイアの概念が新たに注目されています。
 パラノイアという用語は以上のような学問的意味をもっていますが、いまでは小説の題材や歌の題名によく使われたりしています。そこでは、必ずしも病的、否定的な意味あいで使われているわけでもないようです。このことばが今後どのように使用され、社会的に認知されていくのかが注目されます。

(執筆・監修:高知大学 名誉教授/社会医療法人北斗会 さわ病院 精神科 井上 新平)
コラム

バーンアウト症候群(燃えつき症候群)

 医師、看護師、教師といった専門職を襲う症状で、1970年代にアメリカで注目され、1980年代から日本でも問題になってきました。
 感情と身体の両面に症状があり、感情面では不安、いらいら、気分の落ち込みなどが出てきます。自尊心が低下して、仕事への自信や職業的な誇りが失われる状態になります。身体面では上気道感染、息切れ、胃腸障害、頭痛、腰痛、高血圧、睡眠障害などの症状があらわれます。教師や看護師では、30~40%の高率で燃えつき状態にあるという調査もあります。
 就職して間もないころになりやすく、経験を重ねるにしたがってよくなってきますが、経験30年以上の管理職クラスになるとふたたび症状が出やすくなるようです。個人的要因として、繊細で献身的、理想を目指す性格、家庭での持続的ストレスがあげられます。職場要因として、個人の能力を超えた仕事、要求の厳しいクライアント、相応な評価や達成感の欠如、不十分な新人研修などがあります。また社会的要因として、専門職への期待が強いいっぽうで権威が低下していること、クライアントの権利意識の向上、社会的サポートの低下などがあるといわれています。
 対策には、新人教育プログラムの充実、職場環境・人間関係の見直し、個人生活の充実などがあり、医療的な対応が求められることもあります。

(執筆・監修:高知大学 名誉教授/社会医療法人北斗会 さわ病院 精神科 井上 新平)