卵巣がんは婦人科がんの中でも予後が悪く、早期診断や予後予測に寄与するバイオマーカーが求められている。そうした中、福島県立医科大学基礎病理学講座の宮川諒也氏、教授の千葉秀樹氏らの研究グループは、分泌蛋白質spondin-1(SPON1)が卵巣がんにおける独立した予後予測因子となることを発見し、J Ovarian Res2023; 16: 95)に発表した。

卵巣がん組織と健常組織を免疫組織化学的に検討

 まず研究グループは、米国立がん研究所(NCI)と米国立ヒトゲノム研究所(NHGRI)が助成・運営する大規模データベースThe Cancer Genome Atlas(TCGA)のデータを用いて、さまざまながん組織におけるSPON1遺伝子の発現を調査した。その結果、卵巣がん組織でSPON1遺伝子のmRNAが多く見られたが、他のがん組織では見られなかった。 

 そこで研究グループは、SPON1を選択的に識別するモノクローナル抗体(mAb)を開発。これを用いて卵巣がん組織、漿液性卵管上皮内がん(STIC)組織および、健常成人の卵巣、脳、心臓、肝臓などの各組織におけるSPON1の発現状況を免疫組織化学的に調べ、卵巣がんにおける臨床病理学的意義を検証した。

 なお卵巣がん組織は、2003~15年に福島県立医科大学病院で子宮摘出術、両側卵管摘出術、リンパ節摘出術のいずれかを受けた卵巣がん患者167例(平均年齢57.3±13.1歳)と、2010~15年にいわき市医療センターで同様の手術を受けた75例(同54.7±11.4歳)から得た。対象は、5年以上の転帰が確認でき卵巣がんまたは転移により死亡した患者に限定した。STIC組織は2021年に4検体から、健常成人の組織は2018年1月~19年12月に6検体からいずれも福島県立医科大学病院で採取した。

SPON1高発現は複数の臨床病理学的因子とも関連

 検証の結果、健常卵巣組織ではSPON1がわずかに発現していたが、その他の健常組織からは検出されなかった。一方、卵巣がん242例中22例(9.1%)の卵巣組織でSPON1が半定量的に高発現しており、64例(26.4%)は中程度の発現、83例(36.0%)は低発現、69例(28.5%)は発現していなかった。STIC組織では、細胞質で中程度の発現が認められた。

 SPON1高発現群と低発現群についてKaplan-Meier曲線を用いて比較したところ、疾患特異的生存率はそれぞれ50.0%、68.5%で差はなかったが(P=0.1701)、5年無再発生存率(RFS)は13.6%、51.2%と、SPON1高発現群で有意に低かった(P=0.0005)。

 臨床病理学的には、SPON1の高発現は国際産科婦人科連合(FIGO)進行期分類ステージⅢ/Ⅳ(P=0.001)、膀胱がん分類pT2/3(P=0.011)、腹膜播種(P<0.001)などと有意に関連していた。

 さらにCox多変量解析の結果、卵巣がんにおけるRFSの独立した予後予測因子としてFIGO進行期分類ステージⅢ/Ⅳ〔ハザード比(HR)5.693、95%CI 3.419~9.482、P<0.001〕とSPON1の高発現(同2.25、1.303~3.884、P=0.0036)が抽出された。

 以上を踏まえ、研究グループは「SPON1は卵巣がんおよびSTICの特異的バイオマーカーとして有望であり、SPON1高発現が卵巣がんの初回手術時における独立した予後不良因子となりうる」と結論している。

須藤陽子