低炭水化物食や低脂質食は減量や糖代謝の改善などに有用であるとして、その健康効果が注目されているが、長期的な生命予後に及ぼす影響は十分に解明されていない。名古屋大学大学院予防医学分野講師の田村高志氏らは、日本多施設共同コーホート(J-MICC)研究の追跡調査データを用いて日本人における炭水化物・脂質の摂取量と死亡リスクとの関連を調査し、結果をJ Nutr(2023年6月2日オンライン版に発表。男性の低炭水化物摂取および女性の高炭水化物摂取が全死亡リスクとがん死亡リスクを上昇させ、女性の高脂質摂取は全死亡リスクを下げる可能性が示唆されたと報告した。

男性の低炭水化物摂取、女性の高炭水化物摂取で死亡リスク上昇

 欧米では低炭水化物食と死亡リスクについての疫学研究が多く行われ、炭水化物の摂取が少なく蛋白質および脂質の摂取が多いと死亡リスクが上昇するという結果が示されている。しかし、炭水化物摂取量が多く脂質の摂取量が少ない食習慣を持つ日本人についての知見はほとんどない。

 そこで田村氏らは、J-MICC研究のベースライン調査(第1回目調査)参加者のうち、分析に必要なデータがあり、がんおよび心血管疾患の既往歴を持たない男性3万4,893例と女性4万6,440例を対象に、炭水化物・脂質摂取量と死亡リスクとの関連を調査した。

 対象の1日当たりの炭水化物および脂質の摂取量は食物摂取頻度調査票によって推定し、エネルギー比率で表した。死亡リスクに関わる飲酒や喫煙などは交絡因子として調整した。

 男性の炭水化物摂取量と死亡リスクとの関連を調べた結果、エネルギー比率50%以上55%未満の基準群に対し、同40%未満の低炭水化物摂取群は全死亡リスクが1.59倍(95%CI 1.19~2.12、傾向性のP=0.002)、がん死亡リスクが1.48倍(傾向性のP=0.071)であった。エネルギー比率45%以上50%未満の中程度の低炭水化物摂取群では、基準群に対し循環器疾患死亡リスクが2.32倍(傾向性のP=0.002)だった(図1)。

図1.男性の炭水化物摂取量と死亡リスクとの関連

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 女性の炭水化物摂取量と死亡リスクとの関連を調べた結果、炭水化物摂取の死亡リスクへの影響は一定でなく、時間の経過とともに変化した。そこで追跡期間を中央値の約半分である5年で区切って分析した結果、追跡期間が5年以上のとき、エネルギー比率50%以上55%未満の基準群に対して、同65%以上の高炭水化物摂取群で全死亡リスクが1.71倍(95%CI 0.93~3.13、傾向性のP=0.005)、がん死亡リスクも同等(傾向性のP=0.003)だった。一方で追跡期間が5年未満では、同45%以上50%未満の低炭水化物摂取群と同60%以上の高炭水化物摂取群で循環器疾患死亡リスクが上昇し、それぞれ4.04倍と3.46倍だった(傾向性のP=0.264 、図2)。

図2.女性の炭水化物摂取量と死亡リスクとの関連

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女性の高脂質摂取は死亡リスクを下げる

 男性の脂質摂取量と死亡リスクの関連を調べた結果、エネルギー比率20%以上25%未満の基準群に対して同35%以上の高脂質摂取群でがん死亡リスクは1.79倍(95%CI 1.11~2.90、傾向性のP=0.926)で、循環器疾患死亡リスクは脂質摂取量に比例して上昇した(傾向性のP=0.020、図3)。

図3.男性の脂質摂取量と死亡リスクとの関連

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 女性の脂質摂取量と死亡リスクの関連を調べた結果、脂質摂取量の増加に応じて全死亡リスクとがん死亡リスクが低下する傾向が見られた(図4)。

図4.女性の脂質摂取量と死亡リスクとの関連

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(図1~4とも名古屋大学プレスリリースより)

 以上の結果について、田村氏らは「長期的な生命予後への影響を考えると、極端な低炭水化物食や高炭水化物食、脂質摂取の過剰な制限といった食習慣は見直すべきだ」と指摘する。今後J-MICC研究の追跡調査を続けることで、より詳細な死因ごとの検討やがんの部位別の評価とともに、日本人の一般集団での再現性の検証や分子生物学的な機序の解明が期待される。

服部美咲