産官学患民が連携して、希少神経筋疾患を医学・創薬研究を柱に研究結果をさまざまな希少疾患に水平展開し、活動の成果を世界に発信することを目指す日本希少疾患コンソーシアム(RDC Japan)が発足した。7月18日に湘南ヘルスイノベーションパーク(神奈川県藤沢市)で発足記念シンポジウムが開催され、国立精神・神経医療研究センター(NCNP)神経研究所遺伝子疾患治療研究部長でRDC Japan設立準備委員会代表を務める青木吉嗣氏が、設立の経緯や狙いについて述べた。

国の垣根を越え、創薬研究を水平分業型に移行へ

 希少疾患は7,000~8,000種類もあるとされ、世界の推定患者数は3億5,000人。希少疾患治療薬の市場は年間5.4%増と右肩上がりで成長しており、2021年の25兆~30兆円から2026年には40兆円に達すると予想されている。

 しかしながら、希少疾患の大半は有効な治療法がなく、5歳まで生存できる患者は30%にとどまる。こうしたアンメット・ニーズに応えるため、国内外で希少疾患を対象とした医薬品の開発機運が高まっており、700件を超える臨床試験が進行中だ。中でも神経筋疾患領域での開発品目が極めて多いという。

 国内では、2015年に「難病の患者に対する医療等に関する法律」(通称:難病法)に基づく新たな医療費助成制度が開始され、医薬品医療機器総合機構(PMDA)と厚生労働省などが中心となり、希少疾患治療薬の開発を推進してきた。現在、338種類の疾患が難病指定を受けている。

 しかし、希少疾患治療薬の開発は欧米が先行しており、日本は大幅に後れを取っている。米国や欧州で承認された170以上の新薬が日本では未承認で、その多くは日本に拠点を持たない小規模のバイオベンチャーが開発したものである。

 急成長を遂げている希少疾患医薬品市場にあって、日本でドラッグ・ラグが生じている背景には、グローバル化への対応の遅れ、国際競争力の低下に伴う日本市場の魅力や投資優先順位の低下などがある。また臨床試験の被験者登録が困難、患者レジストリの未整備、グローバル試験参加時および新薬審査における要求レベルの高さなども指摘されている。

 青木氏はドラッグ・ラグの解消には、「従来日本が得意としてきたクローズドで垂直統合型の創薬開発のビジネスモデルから、国の垣根を越えたオープンな水平分業型への移行が必要不可欠。しかしステークホルダーと対話すればするほど、課題解決は容易でないことが分かってきた」と述べ、「欧米の模倣をしていては日本固有の問題は克服できない。日本に適した独自の課題解決方法が絶対的に必要」との考えを示した。

企業の開発リスクを分散する仕組みが必要

 青木氏はRDC Japan設立の経緯を説明した。2012~15年に自身が英国留学していた際、「欧米のオープンイノベーションという考え方に触れた。産学官連携で非常にスピーディーに意見交換を行い、希少疾患医薬品の開発を推し進めていく様子を見て、同様のことができないと日本の希少疾患医療は世界から取り残されるのではないかと危機感を抱いた」と述べた。帰国後、関係者と話し合いを進める中でRDC Japan設立のコアメンバーと出会い、NCNPの研究班において2020年から希少疾患カンファランスを2年連続で開催し、今年発足に至ったという。

 同氏は今後の活動方針にも言及。神経筋疾患の医学・創薬研究を出発点として、①治療薬の研究開発を推進し、希少疾患の創薬バリューチェーンを展開する、②希少神経筋疾患の研究成果を多くの希少疾患に水平展開する、③患者中心の医療サービスを提供するため、エキスパートと手を携え、ヒューマン・センタード・デザインに基づいた患者中心の医療を創造する、④コンソーシアムの活動成果を世界に発信するーを4本柱に据え、活動を進めるという()。

図. 日本希少疾患コンソーシアムの活動方針(4本柱)

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(シンポジウム発表資料)

 希少神経筋疾患での産官学による創薬の成功事例として、核酸医薬品で国内初のエクソンスキッピング薬であるデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)治療薬ビルトラルセン(商品名ビルテプソ)がある。DMDは筋肉細胞内に存在する蛋白質ジストロフィンの遺伝子異常・変異により、全身の筋力が徐々に低下する疾患。同薬は、ジストロフィン遺伝子エクソン53に直接作用し、機能を制御する医薬品だ。

 今後の希少疾患の創薬における重要な課題として、同氏は「オープンイノベーションによる協力の拡大」を挙げた上で、「製薬企業が安心して希少疾患の創薬できる環境として、開発リスクを分散する仕組みが必要」と強調した。

(小沼紀子)