2024年秋に現行の健康保険証を原則廃止してマイナンバーカードと一本化する政府方針に対し、包囲網が狭まってきた。26日の参院特別委員会の閉会中審査では、相次ぐトラブルを受けて与野党から見直しを求める意見が続出。内閣支持率の下落要因に挙げられる中、岸田文雄首相の判断が焦点となっている。首相は近く国民向けに説明の機会を設ける方向だ。
 「信頼回復を優先し、来年秋の保険証廃止も期限ありきではなく、国民の理解に努めるべきではないか」。参院特別委で最初に質問した自民党の山田太郎氏は、廃止見直し論の口火を切った。
 これに対し、河野太郎デジタル相はマイナカードと保険証の一体化の利点を強調。「わが国の医療DXは待ったなしだ」と改めて来秋の廃止方針に理解を求めたが、山田氏は納得せず、「理解を優先すべきだ。与党からもしっかり付言させてもらいたい」と突き放した。
 公明党の上田勇氏も、マイナカード普及に走る政府の姿勢を「行政や関係者の都合が前面に出ているのではないか」と酷評。制度の旗振り役を務めるデジタル庁についても「司令塔の役割が十分に発揮されたか疑問がある」と指摘した。
 ここにきて与党から保険証廃止方針への批判が相次ぐのは、支持率下落に歯止めがかからない現状に対する危機感が強まっているためだ。
 今週に入り、自民の萩生田光一政調会長、世耕弘成参院幹事長が相次いで廃止期限延期に言及。これに野党は勢いを得た形で、特別委で共産党の伊藤岳氏は加藤勝信厚生労働相に「自民党幹部の声を聞かないということか」と迫り、社民党の福島瑞穂党首も記者会見で、「萩生田氏や世耕氏も無責任ではないか。本当に(延期すべきだと)思うなら(政府を)止めてほしい」と主張した。
 立憲民主党の杉尾秀哉氏は特別委で、マイナカード返納の動きについて「微々たる数」などと強気の説明を繰り返した河野氏を追及。「反省が全くない」と断じた。河野氏は「総点検作業のことを理解されていないので、説明している」と応酬するなど、変わらぬ答弁ぶり。ただ、所属する自民麻生派からも「あの物言いだけは何とかした方がいい」との声が上がる。
 こうした与野党の圧力に、首相官邸も対応を迫られつつある。首相周辺は、週内にも現行保険証の取り扱いに関して「首相が何らかの発信をする」との見通しを示した。これに加え、来月上旬に予定する総点検の中間報告に合わせ、首相が記者会見することも検討している。 (C)時事通信社