治療・予防

全身のホルモン分泌に影響
視覚障害の原因にも―下垂体腺腫

 下垂体とは、脳の底部にぶら下がっているサクランボのような器官で、全身のホルモン分泌をつかさどっている。下垂体腺腫とは下垂体にできる良性の腫瘍だが、体にさまざまな変調を来す。脳ドックなどの検査で偶然見つかるケースも増え、最近では人気お笑い芸人にもこの病気が発覚し、治療を経て復帰している。症状や適切な対処法について、日本医科大学付属病院(東京都文京区)脳神経外科の田原重志准教授に聞いた。

 ▽両眼外側の視野が狭く

 首から上を球体としてイメージしてほしい。下垂体はそのちょうど中心に位置する女性の小指の先くらいの小さな器官で、体内のさまざまなホルモンの働きを調整する司令塔の役割を担っている。

鼻から内視鏡を挿入し、腫瘍を摘出

鼻から内視鏡を挿入し、腫瘍を摘出

「原因の多くは不明ですが、下垂体の細胞が気まぐれに増殖していくのが下垂体腺腫です。良性の腫瘍ですが、成長ホルモンが過剰に分泌されれば手足や顎、額、唇などが肥大化する先端巨大症に、乳汁分泌を刺激するプロラクチンの場合は月経不順や不妊症の原因となります。また、副腎皮質刺激ホルモンが過剰に分泌されると、高血圧糖尿病の原因になることもあります」と田原准教授は説明する。

 また、腺腫が大きくなると正常な細胞が圧迫されて、逆にホルモンが出にくくなるほか、下垂体周囲の神経が圧迫されて症状に表れることもある。代表的なのが視力視野障害だ。下垂体と視神経の隙間は1センチにも満たず、大きくなった腫瘍に視神経が圧迫されて、徐々に両眼の外側が見えなくなっていく。「患者さんからは、車の運転時に信号が見づらいとか、歩行時に人とぶつかるようになったという話をよく聞きます」と田原准教授。

 こうした症状のある人に磁気共鳴画像装置(MRI)検査を行うと、腺腫が確認できる。また、血液検査でもホルモンの異常値が見つかるという。

 ▽手術は鼻からが一般的

 治療は基本的に手術が第一選択となる。鼻から内視鏡を入れて、腫瘍を耳かきのような器具で摘出する手技が主流だ。

 「脳にまったく触れずに腫瘍にアプローチするため、頭を開く開頭術に比べて、後遺症などが残る危険性は低いです」と田原准教授。目の症状は術後すぐに、過剰に出ていたホルモンも徐々に改善するという。

 最近、脳ドックなどの検査で、偶然見つかるケースが増えている。症状がなく、腺腫が小さければ、必ずしも手術を行う必要はない。「ただし、無症状の下垂体腺腫の約13%が大きくなり、症状を引き起こす可能性があります。腺腫があると言われたら少なくとも年に1度、MRIを撮って大きさを確認し、採血してホルモン値を調べていくことが大切です」と田原准教授はアドバイスする。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)


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