イスラエル・Ben-Gurion University of the Negev/Clalit Health ServicesのYulia Treister-Goltzman氏とRoni Peleg氏は、線維筋痛症と死亡リスクとの関連を検討した研究8件18万8,751例のシステマチックレビューおよびメタ解析を実施。その結果、線維筋痛症を有する患者は有さない対照群と比べて全死亡、事故死、感染症による死亡のリスクが高く、特に自殺による死亡リスクが3倍超に上る一方、がん死亡のリスクは低かったとRMD Open2023; 9: e003005)に発表した。

全死亡リスク1.3倍、診断基準による差も

 Treister-Goltzman、Pelegの両氏は、医学データベースPubMed、Scopus、Web of Scienceに2022年8月までに収載された論文を検索。線維筋痛症と全死亡または原因特異的死亡リスクとの関連を検討し、線維筋痛症のない対照群に対する死亡のハザード比(HR)、標準化死亡比(SMR)、オッズ比を算出した原著論文8件・線維筋痛症患者18万8,751例を抽出した。

 ランダム効果モデルによるメタ解析の結果、線維筋痛症患者における全死亡の有意なSMR上昇は認められなかったものの(4件、SMR 1.07、95%CI 0.74~1.39、研究間の異質性I2=85%、異質性のP<0.01)、全死亡の有意なHR上昇が認められた(3件、同1.27、1.04~1.51、I2=91%、異質性のP<0.01)。ただし、いずれも研究間の異質性が高かった。

 そこで、米国リウマチ学会(ACR)の線維筋痛症診断基準(1990年版)を用いた研究に限定して解析したところ、HR(1.22、95%CI 0.85~1.58、I2=82%、P=0.02)、SMR(1.21、95%CI 0.87~1.54、I2=64%、P=0.06)のいずれとも有意な全死亡リスク上昇は認められなかった。両氏は「ACR診断基準の1990年版と改訂版における主な違いは、重症度評価に睡眠障害認知症状、疲労感などの身体症状の有無が加わったことであり、これらの症状が全死亡リスクに影響を及ぼした可能性がある」と考察している。

感染症死リスクが66%上昇、がん死亡リスクは18%低下

 原因特異的死亡リスクの解析では、線維筋痛症患者で最も大幅なリスク上昇が認められたのは自殺による死亡で(4件、SMR 3.37、95%CI 1.52~7.50、I2=92%、異質性のP<0.01)、感染症死亡リスクも有意な上昇が認められ(8件、同1.66、1.15~2.38、I2=75%、異質性のP<0.01)、事故死リスクは上昇傾向が認められた(3件、同1.95、0.97~3.92、I2=73%、異質性のP=0.03)。ただし、いずれも研究間の異質性が高かった。

 Treister-Goltzman、Pelegの両氏は「事故死のリスク上昇は、線維筋痛症に伴う疲労、睡眠障害、集中力の低下が原因となった可能性がある。これらの項目は2010年版から診断基準に含まれるようになった」と説明している。

 一方、がん死亡リスクは低下が見られ、研究間の異質性は認められなかった(SMR 0.82、95%CI 0.69~0.97、I2=40%、異質性のP=0.19)。線維筋痛症患者に対しては画像診断を含む幅広い検査が行われるため、それらががんの二次予防や早期検出につながった可能性があるという。

 以上の結果から、両氏は「線維筋痛症への理解は十分でないが、有病率は年々上昇し続けている。線維筋痛症患者のケアにおいては、自殺念慮のスクリーニング、事故防止、感染症の予防と治療に注力すべきことが示された」と結論している。

(太田敦子)