A4(Anti-Amyloid Treatment in Asympotomatic Alzheimerʼs disease)試験は、ベースライン時に認知障害がなかったが、PET検査で脳内アミロイド蓄積が増加していた65~85歳の前臨床期アルツハイマー病(プレクリニカルAD)患者を対象に、抗アミロイドβ抗体solanezumabによる認知機能低下を遅らせる効果を検討した第Ⅲ相二重盲検プラセボ対照ランダム化比較試験である。米・Brigham and Women's HospitalのReisa A. Sperling氏らは、日本を含む4カ国で登録された1,169例を対象としたA4試験で4.5年間にわたりsolanezumabとプラセボを比較した結果、プレクリニカルAD患者に対する4週ごとのsolanezumab静脈内投与では、プラセボに比べて認知機能低下を遅延させる効果は示されなかったとN Engl J Med2023年7月17日オンライン版 )に発表した(関連記事「認知症の抗Aβ抗体実用化に伴う診断上の課題 」)。

無症候性AD患者が対象

 認知障害のない高齢者の約20~40%で脳内アミロイド蓄積が増加していることが報告されている。これらの"アミロイド陽性"だが認知障害のない高齢者は、プレクリニカルADまたは無症候性ADの段階にあり、認知機能低下リスクが高い可能性が指摘されている。A4試験は、プレクリニカルADの段階で認知機能低下を遅らせることを目的とした、単量体アミロイドを標的とするsolanezumabによる早期介入試験である。

 対象は、65~85歳で軽度認知障害や認知症と診断されておらず自立して生活しているプレクリニカルAD患者で、solanezumabを最大1,600mgの用量で投与する群とプラセボ群に1:1でランダムに割り付け、4週ごとに静脈内投与を240週間行った。プレクリニカルADは、重症度評価法であるglobal Clinical Dementia Ratings score(CDR、0~3:スコアが高いほど重症)が0、Mini Mental State Examination(MMSE、0~30:スコアが低いほど認知機能が低下)が25以上、および18F-florbetapir PETで定量評価したアミロイド蓄積の増加などと定義した。アミロイド陽性はstandardized uptake value ratio(SUVR)が1.15以上とし、1.10~1.15未満は読影者2人により判定された場合のみ陽性とした。

 主要評価項目は、240週時点のPreclinical Alzheimer Cognitive Composite(PACC)スコア(4種類の検査のzスコアの合計、スコアが高いほど認知機能が良好)の変化量とした。

240週時点で約3割が症候性に進行

 オーストラリア、カナダ、日本および米国の67施設で登録された1,169例が、solanezumab群(578例)とプラセボ群(591例)に割り付けられた。このうち、solanezumabまたはプラセボを1回以上投与し主要評価項目の評価を受けたsolanezumab群564例とプラセボ群583例を、修正intention-to-treat(ITT)集団として解析した。平均年齢は72歳、女性が約60%、白人が94%、約75%に認知症の家族歴があった。

 ベースライン時のsolanezumab群とプラセボ群の背景はほぼ同等で、PACCスコアの平均±標準偏差はそれぞれ0±2.8と0±2.6、アポリポ蛋白E(ApoE)の対立遺伝子ε4の保有者はそれぞれ59.0%と58.7%、PET画像のアミロイド蓄積量はそれぞれ66.2 Centiloidと65.9 Centiloidだった。

 solanezumab群401例とプラセボ群423例のデータを解析した結果、240週時点のPACCスコアのベースラインからの平均変化量は、solanezumab群が-1.43(95%CI -1.83 ~-1.03)、プラセボ群が-1.13(同-1.45 ~-0.81)と両群間に有意差はなかった(差-0.30、同-0.82~0.22、P=0.26)。240週時点でCDRスコアが0.5(軽度認知障害)以上になった疾患進行率は、solanezumab群が35%、プラセボ群が32%だった。

アミロイドの経時的蓄積は持続

 PET画像から、両群でアミロイドの経時的な蓄積が持続していることが示された。アミロイド蓄積量は、solanezumab群で11.6 Centiloid、プラセボ群で19.3 Centiloid増加した(平均変化量の差7.7 Centiloid、95%CI 5.1~10.4)。増加は数値上プラセボ群の方が大きかったが、この結果からの統計的推定には限界があるとした。  

 全体的および重篤な有害事象の種類と発生率は両群で同等だった。浮腫を伴うアミロイド関連画像異常(ARIA)がsolanezumab群で1例、プラセボ群で2例報告された。小出血またはヘモジデリン沈着症を伴うARIAは、solanezumab群の29.2%、プラセボ群の32.8%で発生した。

アミロイド蓄積の遅延では不十分

 以上の結果から、Sperling氏らは「第Ⅲ相試験では、4.5年の投与期間にわたりsolanezumabはプラセボと比べて、プレクリニカルAD患者の認知機能低下の進行を遅らせることはなかった」と結論づけた。

 初期の症候性AD患者を対象とした幾つかの試験では、アミロイドPETで計測した脳アミロイド線維の正常値への大幅な減少が、認知症の進行遅延に関連することが示されている。Sperling氏らは、こうした先行研究の結果とA4試験の結果はおおむね一致するとの見解を示し、「アミロイド線維の値をベースライン以下に減少しなければアミロイド蓄積を遅らせても、臨床的進行は減速しなかった」と述べている。

(坂田真子)