米・University of California, San FranciscoのHope S. Rugo氏らは、抗Trop-2抗体薬物複合体(Antibody Drug Conjugate;ADC)であるsacituzumab govitecanの第Ⅲ相多施設非盲検ランダム化比較試験(RCT)TROPiCS-02の最終解析結果をLancet (2023年8月23日オンライン版)に発表。「sacituzumab govitecanは、ホルモン受容体陽性/HER2陰性の転移乳がん患者の全生存(OS)を有意に延長した」と報告した。

Trop-2はTNBCの80%以上に発現

 栄養膜細胞表面抗原(trophoblast cell-surface antigen; Trop)-2は複数のがん種で高発現しており、トリプルネガティブ乳がん(TNBC)の80%以上に発現しているといわれている。sacituzumab govitecanは抗Trop-2抗体とSN-38(イリノテカンの活性代謝物)を結合させたADC。TROPiCS-02試験では、ホルモン受容体陽性/HER2陰性でホルモン療法に抵抗性となった再発・切除不能/転移乳がんに対する効果を、化学療法群(エリブリン、ビノレルビン、ゲムシタビン、カペシタビンのいずれかを医師が選択)を対照として検討した。

 主要評価項目は無増悪生存(PFS)、副次評価項目はOS、奏効割合(ORR)、QOL、安全性などであり、主な成績は既に学会などで発表されている(関連記事「ESMO 2022【解説】乳がん領域の3演題」)。

化学療法群と比べ3.2カ月有意に延長

 試験は北米および欧州の91施設で実施され、2019年5月30日~21年4月5日に543例をsacituzumab govitecan群(272例)または化学療法群(271例)にランダムに割り付けた。年齢中央値〔sacituzumab govitecan群:57歳(四分位範囲49~65歳)、化学療法群:55歳(同48~63歳)〕を含む患者背景(ベースラインの内臓転移割合、過去の治療薬、Trop-2発現状況)に両群で大きな差はなかった。

 中央値で12.5カ月(四分位範囲6.4~18.8カ月)の追跡期間中に両群で390例が死亡。OSは化学療法群の11.2カ月(95%CI 10.1~12.7カ月)に対し、sacituzumab poviticas群では14.4カ月(同13.0~15.7カ月)と有意に延長した〔ハザード比(HR)0.79、95%CI 0.65~0.96、P=0.020〕。OSのベネフィットはTrop-2の発現レベルにかかわらず一貫していた。

 ORR〔sacituzumab govitecan群57例(21%)vs. 化学療法群38例(14%)、オッズ比(OR)1.63、95%CI 1.03~2.56、P=0.035〕、全般的健康状態やQOL低下までの期間(4.3カ月 vs. 3.0カ月、HR 0.75、95%CI 0.61~0.92、P=0.0059)、疲労増悪までの期間(2.2カ月 vs. 1.4カ月、同0.73、0.60~0.89、P=0.0021)についても、sacituzumab govitecan群で有意な改善が認められた。

 安全性プロファイルに関しては、TROPiCS-02の主解析(J Clin Oncol 2022 ; 40: 3365-3376)やASENT試験(関連記事「新規抗体薬物複合体が進行TNBCのPFS、OSをともに改善」)で報告されたものと同様だった。

転移乳がんに対する新しい治療オプション

 以上の結果を踏まえ、Rugo氏らは「sacituzumab govitecanは化学療法と比べ、統計学的有意差をもってOSを3.2カ月間延長した。これは臨床的にも意味のあるベネフィットであり、副作用は管理可能なレベルだった」と指摘。「これらのデータは、治療歴を有するホルモン療法抵抗性のホルモン受容体陽性/HER2陰性転移乳がんに対する新たな治療オプションとしてsacituzumab govitecanを支持するものである」と結論している。

木本 治