ビタミンDは、細胞増殖抑制作用や細胞死促進作用を介したがん予防効果が期待されており、腫瘍微小環境への免疫細胞の浸潤が見られた患者に対するビタミンDサプリメント投与によりがん再発リスクが低減したとの報告もある。東京慈恵医科大学分子疫学研究部教授の浦島充佳氏らは、ビタミンDが抗p53抗体の抗腫瘍免疫を活性化してがんの再発や死亡リスクを低減するという仮説を立てて検証。ビタミンDサプリメント摂取により、消化器がん患者の再発死亡リスクが7割以上低下したとの結果をJAMA Netw Open2023; 6: e2328886)に報告した。

抗p53抗体陰性例では有意差なし

 がん抑制遺伝子p53は、がん抑制遺伝子群を活性化して細胞分裂抑制や細胞死などを誘導するp53蛋白をつくる。またp53は変異しやすく、がん患者の約30~50%で突然変異が見られ、変異例では再発率が高いことも知られている。

 一方ビタミンDについては、メタ解析でビタミンDサプリメントの毎日摂取が一般集団のがん死亡率低下やがん患者の生存率改善に関連すること、大規模ランダム化比較試験VITALの二次解析で進行がんの発症リスクが低下することなどが報告されている(関連記事「ビタミンDで進行がん発症リスクが低下」。

 そこで浦島氏らは、「ビタミンDが抗p53抗体による抗腫瘍免疫を活性化してがんの再発や死亡リスクを低減する」と仮説を立て、消化器がんの再発予防におけるビタミンD補充療法の有効性を検証したランダム化比較試験AMATERASのPost hoc解析を行い検証した。

 同試験では、2010~18年にⅠ~Ⅲ期の消化器がん患者417例を登録。ビタミンDサプリメント2,000IU/日を投与する群(251例)とプラセボ群(166例)にランダムに割り付け、再発予防効果を検討した。主解析では、5年無再発生存(DFS)、5年全生存(OS)ともに両群で有意差は認められなかった(JAMA 2019; 321: 1361-1369)。

 今回のPost hoc解析では、抗p53抗体を測定した392例(平均年齢66歳、男性260例、ビタミンD群241例、プラセボ群151例)を、p53の発現レベルで①過剰発現群、②中等度発現群、③低発現群、④非発現群-に分類して検討した。

 まず、抗p53抗体の検出の有無で5年DFSを比較したところ、陽性例〔ビタミンD群77.2% vs. プラセボ群60.0%、ハザード比(HR)0.57、95%CI 0.30~1.10〕、陰性例(同75.9% vs. 72.5%、0.98、0.56~1.69)とも有意差はなかった。ただし、抗p53抗体陽性かつp53過剰発現群の再発リスクは他群の約3.5倍と高かった(HR 3.46、95%CI 1.78~6.73)。

再発しやすいがんでビタミンDサプリメント有効か

 次に、この集団に限定して解析した結果、5年DFSはプラセボ群の30.6%に対しビタミンD群では80.9%と有意に良好で、再発死亡リスクが73%低かった(HR 0.27、95%CI 0.11~0.01、P=0.002、

図.抗p53抗体検出かつ過剰発現における再発または死亡の累積ハザード

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(東京慈恵医科大学プレスリリースより)

 今回の結果について、浦島氏は「特にがんの再発リスクが高いと考えられる患者集団において、ビタミンDサプリメントの投与により再発死亡リスクが低減する可能性が示唆された」と結論。今回のPost hoc解析で得られた知見を裏付けるため、ビタミンDサプリメント2,000IU/日連日投与によるがんの遅発性再発および全死因に対する有効性を検討するAMATERAS2試験を2022年1月に開始している。

服部美咲