医学部・学会情報

ビタミンDサプリでp53過剰発現に抗体を持つ消化管がん患者の再発死亡リスクが73%も減少
~治療後がんの再発や転移の予防が可能に~ 東京慈恵会医科大学

 東京慈恵会医科大学分子疫学研究部浦島充佳教授らは、p53癌抑制蛋白異常発現に対して免疫反応している消化管がん患者がビタミンDサプリメント2,000IUの連日内服した場合、プラセボ(偽薬)に比べて再発・死亡リスクが73%減少していたことを二重盲検ランダム化プラセボ比較試験の事後解析により明らかにしました。

< ポイント >
● p53がん抑制蛋白が過剰発現し、かつ抗p53抗体を持つがん患者のグループでは再発死亡リスクはそれ以外のグループと比較して約3.5倍でした。
● がんが再発しやすいこのグループでは、ビタミンDサプリメントの連日内服によりがんの再発死亡リスクが73%減少し、再発し難いグループとほぼ同等となりました。
● ビタミンDサプリメントにより、がんに対する免疫が活性化され、治療後がんの再発あるいは遠隔転移を予防できることが示されました。

 本研究は文部科学省から科学研究費助成事業(20H03537)からの資金援助を受け2022年から実施しているアマテラス2試験と名付けた他施設共同研究の一環であり、成果は2023年8月23日にJAMA Network Open誌に掲載されました。

東京慈恵会医科大学 分子疫学研究部 教授 浦島充佳 のコメント
 過去ビタミンDサプリメントの癌再発予防の研究を継続してまいりました。もしも、ビタミンDサプリメントが癌の再発を抑制するとしたら、そのメカニズムは何なのか?ということが常に念頭にありました。今回の研究結果よりp53癌抑制遺伝子変異☞p53癌異常蛋白発現☞抗腫瘍免疫が反応☞ビタミンDが抗腫瘍免疫を増強する☞再発リスクを抑制 といった構図が浮かび上がりました。p53癌抑制遺伝子変異があると再発リスクが高く、逆にこのようなリスクの高い患者さんにビタミンDが有効であるとしたら朗報です。しかも73%も抑制したという他の研究でも類をみない極めて高い効果です。ボストン大学医学部のホリック教授からは「この結果はゲームチェンジャー」になり得ると高い評価をいただきました。しかし、これは事後解析の結果なので、本当かどうかを確認する必要があります。p53が過剰発現している場合で本当にビタミンDサプリメント投与が効くのか?を明らかにするべく2022年1月より第2弾となるアマテラス2試験を開始しています。

< 詳細 >
 p53癌抑制遺伝子はがんの中で最も変異頻度が多く(全癌種の30~50%程度)、かつ再発率が高いことがよく知られています。またp53癌抑制遺伝子に蛋白の構造異常を伴うような変異があるとp53癌抑制蛋白が過剰発現することも判っています。

 今回、病理免疫組織化学のp53染色程度によって (A)p53の過剰発現、(B)p53の中等度発現、(C)p53のわずかな発現、(D)p53の無発現の4つのグループに分けて解析しました。
 この4グループで比較するとp53が多く発現したグループほど再発死亡率が高くなる傾向にありました。

 また、病理検体の免疫染色を行い、p53癌抑制蛋白が発現していた場合を調べると、血中抗p53蛋白抗体の濃度が顕著に上昇していました。これにより、変異したp53遺伝子から作られる蛋白を免疫細胞が異物として認識していることが示されました。

 (A)p53の過剰発現のグループのうち、更に血中から抗p53抗体が検知できた患者集団について再発死亡リスクを比較すると、他より約3.5倍高くなりました。(Hazard ratio=3.46,95% CI,1.78-6.73)
 更に、この患者集団に注目して、ビタミンDサプリメントの連日服用とプラセボで比較したところ、ビタミンDを服用した患者はがんの再発死亡リスクが73%低くなりました(図)。これはビタミンDサプリメントが抗腫瘍免疫を活性化して患者予後を改善することを示します。

 一方、それ以外の場合ではビタミンDサプリメントとプラセボで再発死亡リスクはに差はなかったため、ビタミンDサプリメントは特にがんが再発しやすい患者に有効であることが判りました。


<アマテラス試験>
 ビタミンDは日光にあたることにより皮下でつくられ、日本で実施される試験であることから、天照大神にあやかりアマテラス試験と名付けました。2010年から8年間データを蓄積し食道から直腸に至る消化管癌患者417人に対してビタミンDサプリメント(2,000IU/day)とプラセボ群に3:2の割合で振り分け、再発あるいは死亡の数を比較するものです。ビタミンD群は術後2週間前後より試験用サプリメントの内服を開始しました。その結果、ビタミンD群の5年無再発生存率は77%、プラセボ群では69%と、ビタミンD群は再発・死亡がプラセボ群と比較して8%少なくなりましたが、統計学的に有意といえる程ではありませんでした(P=0.18)。この結果は2019年にアメリカ医師会雑誌(JAMA)で発表されました。

<アマテラス2試験>
 アマテラス試験の事後解析で立てた2つの仮説を証明するべく、2022年1月より慈恵医大附属病院と国際医療福祉病院の多施設共同研究という形でアマテラス2試験(JK121-009, jRCTs031210460)を開始しました。癌患者、特にp53陽性癌患者において術後2か月以内から試験終了までビタミンDサプリメント(2000 IU/day)を連日長期投与する群と、プラセボを投与する群にランダムに振り分け、遅発性(投与開始から365日以降)の再発、あるいは全ての原因による死亡ハザード・リスクを比較し、ビタミンDサプリメント投与の有効性を検討します。また、有害事象(高カルシウム血症等)の発現率を群間で比較し、ビタミンDサプリメント投与の安全性についても検討します。


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