京都アニメーション放火殺人事件の遺族は今も悲しみが癒えることはなく、心身の不調に苦しむ。犠牲となった美術監督、渡辺美希子さん=当時(35)=の母達子さん(73)と兄勇さん(44)は警察の犯罪被害者支援カウンセラーらに支えられてきた。「支援制度の充実こそ救い」と訴え、講演活動を続ける。
 「思いがけず大事な人が亡くなった時、皆さん、どんだけ耐えてたんやろうと思った」。京都市内で6月に行われた講演で、達子さんは勇さんと共に登壇し、こう話した。事件の一報を知り、自宅のある滋賀県から京アニ本社に向かう電車の中で耳鳴りが始まった。到着した本社では多くの人が泣き崩れ、程なく次女の美希子さんは病院に搬送されていないと聞かされた。遺体と対面した際、「お葬式で見せるわけにはいかん」と思った。
 子を失うつらさは想像以上だった。「私より先に子を亡くされた方と話した時に謝った。『こんなにしんどいとは理解できてなかった、ごめん』って」と語った。
 達子さんは自身の立場を「1.5次被害者」と言う。事件後間もなく、京都府警を通じて滋賀県警の女性カウンセラーの紹介を受けた。
 勇さんは当初、支援を拒んだ。「病気だと認識することが嫌だったのかもしれない」と振り返る。約半年後、原因不明の発熱が治まらず動揺した。精神科を受診したところ、うつ病と診断された。「頭では大丈夫と思っていても体に出ていた」と話し、現在は達子さんと一緒にカウンセリングを受けている。
 達子さんは「しんどさからの脱出は無理だけど、カウンセリングで人と話せるようになる。支援の手にイエスと言える人が増えれば」と話す。ただ、臨床心理士の資格を持つカウンセラーは県警に1人だったといい、その女性職員の負担の大きさを思いやる。ボランティアで付き添い支援を行う被害者支援センターの存在も「財政的にきつい中、しんどい思いをしている人の所に行こうと努力されている」と語る。
 「交通事故で子を亡くした親と事件で失った親の悲しみの差は、ない」と、達子さん。勇さんは自身の活動を「数ミリでも後押しできれば」と語り、多くの被害者が救われる社会を願う。 (C)時事通信社