Dr.純子のメディカルサロン
4月からの3カ月は適応障害に注意
~環境の変化が生むストレスを避けるには~
新入社員が研修をスタートする季節がやってきました。これから6月までの3カ月は、環境が変わる人の適応障害に特に気を配りたい時期と言えます。新入社員に限らず、新しい部署に異動になったり、会社を変わったりしたような場合も適応障害に気を付ける必要があるでしょう。
希望と不安が交錯する入社式=2022年4月1日、東京都中央区
◇気分の落ち込みや身体症状
適応障害を防ぐには自分自身の気付きが大事ですが、周りの人、つまり家族や友人、職場の担当者の気付きも重要です。適応障害は環境の変化や、明らかに「これがストレス」と分かる要因があってから3カ月以内に起きる症状です。気分の落ち込みだけでなく、不眠や、食欲不振や胃の痛み、下痢などの消化器症状、耳鳴りやめまい、頭痛など、さまざまな体の症状も起こります。
【気分の落ち込みサイン】
・楽しいと思えることがない
・いつもは気にならないことでカッとする
・気持ちが落ち着かない
・絶えず何かが不安になる
・集中できない
こういったことが継続する場合は要注意です。
【身体症状サイン】
・睡眠障害…寝付きが悪い・途中で目が何度も覚めてしまう・早朝覚醒
・消化器症状…食欲不振・腹痛・下痢など
・めまいや耳鳴り
このほか、疲労感が続いたり、頭痛や発熱などが起きたりすることもあります。
【ミスを多発】
集中できないことでミスや物忘れが多くなったり、朝起きようとしても、だるくて起きられず遅刻したりして、日常生活や仕事に支障が出るようになります。こうしたミスや遅刻で職場の上司から「たるんでる、緊張感がない」と言われてさらにストレスになる場合もあります。ですから早めに気付いて対処することが大事です。
一時的に気分が低下したり、不安になったりすることは心配ありません。ちょっと気分が低下しても、仲間と話したり体を動かしたりして改善すれば問題はありません。しかし、気分が低下したり身体症状が出たりして、その気分が全く改善せずに数日続くような場合は、受診したり信頼できる人に相談したりすることが必要です。
眠れないのはストレスのサインかも
◇適応障害になるのはなぜ?
同じように研修を受けて新しい環境に置かれても大丈夫な人もいるのに、適応障害に陥る人がいます。ですから一概に環境だけが問題というわけではなく、環境と、その人のレジリエンス(回復力)のバランスと言えるでしょう。その人は、その環境に適応しにくいだけであって、すべてのストレスに弱いということではありません。
例えば、じっとしたままデスクワークをする仕事にストレスを感じない人もいれば、強くストレスを感じる人もいます。逆に、デスクワークにストレスを感じる人は、営業職のように人と関わる仕事にはストレスを感じにくいということもあるのです。努力して次第に適応できるようになる職種もありますが、その人に全く向いていないという業種があるのも事実です。研修中に強いストレスを感じるような場合は、早めに担当者に伝えることが大事です。
どの業種に強いストレスを感じてしまうのか、あるいは大丈夫なのかを見極めて、能力を発揮できる場所で業務を行うことが鍵と言えます。新入社員の配属を決めるときは、こうした適性への配慮も必要でしょう。
交感神経を緩めてリラックス
◇交感神経を緩める時間を作って予防
環境が変わることはストレス要因です。毎日緊張が続いていることを自覚して、交感神経を緩めてリラックスする時間を作ることが必要です。週末は散歩したり体を動かしたりする、友達と話す、など気持ちを切り替える時間を作ってください。仕事が終わったら深呼吸する、温かい飲み物を飲む、お風呂にゆっくり入る、寝る前にストレッチをすることなども役立ちます。
◇ストレスに影響する研修指導者の資質
研修中に分からないことを聞くのを遠慮しているうちに研修期間が終了し、そのまま新しい部署に配属されて業務を始めたところ、うまくいかず自己肯定感が低下して落ち込んでしまうというケースもあります。そういう人からは、「なんか怖くてものを聞きにくい雰囲気があって」という声を聞きます。また、誰かが質問した時に、「そのくらい自分で考えろ」「いちいちそんなことまで聞かないと分からないのか」と研修の指導者が答えるのを聞いて怖くなったという話もあります。研修の指導をする人は、相手が質問しやすい雰囲気づくりをすることも大事です。
適応障害で休職中のAさんから聞いた研修中のストレスです。グループで課題解決を考えるワークショップがあった時のこと。Aさんのグループではなかなかうまく解決法が浮かばずに時間がかかってしまったといいます。すると指導している担当者に、「去年のグループは夜まで頑張っていた。君たちはそのくらいのガッツがないのか」と言われ、嫌な気分になったそうです。「昨年のグループと比較されたのも嫌だったし、夜までやれと言われたような圧を感じて昭和みたい」と思ったそうです。
これでは分からないことがあっても質問しやすい雰囲気とは言えません。強制するのではなく、自発的に行動したくなる雰囲気をつくることが必要です。最初の3カ月は、その後の職場の人間関係を構築する基礎にもなります。信頼できる上司がいるとストレスは軽減します。分からないことを聞きやすい上司になってほしいと思います。(了)
(2022/04/04 05:00)
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