末期腎不全患者に尿毒症や心不全のリスクがある場合、腎代替療法として血液透析などが選択される。血液透析例において腎機能が予後にどのような影響を及ぼすかは明らかでない。名古屋大学大学院腎臓内科学の岡崎雅樹氏は、米国の大学との共同研究により、新たに血液透析を開始した末期腎不全患者3万9,623例における透析開始時の腎機能と死亡リスクの関連性を検討。残存腎機能の喪失は死亡リスクの上昇と関連することを明らかにしたと、Kidney Int Rep(2023年8月3日オンライン版)に発表した。

死亡率に腎尿素クリアランスと1日尿量が関連

 解析の対象となったのは、2007年1月1日~11年12月31日に米国で新たに血液透析治療を開始した18歳以上の20万8,820例のうち、畜尿データを有し週3回の血液透析を60日以上受けた3万9,623例〔腎尿素クリアランスは15mL/分/1.73m2、1日尿量は1,500ml未満〕。血液透析開始時点での残存腎機能で層別化し、心臓突然死(SCD)を含む心血管死および非心血管病死亡のリスク評価を行った。

 観察期間中央値は548日で心血管死は2,772件、非心血管病死は2,195件発生した。残存腎機能評価は、腎臓が血液中の老廃物をどのくらい取り除いているかを測定した腎尿素クリアランスおよび1日尿量で行った。

 解析の結果、血液透析開始時の残存腎機能が低いほど死因にかかわらず死亡リスクが有意に高く、1,000人・年当たりのSCDは腎尿素クリアランス6.0mL/分/1.73m2以上では30.9、4.5~6mL/分/1.73m2未満では31.5、3.0~4.5mL/分/1.73m2未満では30.8、1.5~3.0mL/分/1.73m2未満では34.3、1.5mL/分/1.73m2未満では41.5だった〔6.0mL/分/1.73m2以上に対する1.5mL/分/1.73m2未満の調整後ハザード比1.63(95%CI 1.35~1.96)〕。SCD以外の心血管死、非心血管病死でも同様に、残存腎機能が低いほど死亡リスクが有意に高かった。

 血液透析開始時の腎尿素クリアランスが1.5~3.0mL/分/1.73m2未満、1.5mL/分/1.73m2未満でのみSCD以外の心血管死のリスクが上昇することが分かった。しかし、年齢、性、人種、併存疾患、BMIなどを調整したところ、腎尿素クリアランスが低いほど全ての死亡リスクが上昇する傾向が認められた(傾向性のP<0.001、図1)。また、1日尿量が少ないほど死亡リスクが有意に高いことも示された(傾向性のP<0.001)。

図1 血液透析開始時の腎尿素クリアランスと死因別の死亡リスク

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 残存腎機能が低い例では、蛋白質摂取の指標である標準化蛋白異化率(nPCR)が有意に低く、1回の血液透析中に水分を抜き出す速度(限外濾過速度:UFR)が速い傾向があった(いずれも傾向性のP<0.001)。

 さらに研究グループは、週3回の血液透析を新たに開始して6カ月後の畜尿データが得られた1万2,169例を対象としてサブグループ解析を実施、1日当たりの尿量減少速度が速いほどSCDおよび非心血管死のリスクが高くなる傾向が示され(図2)、6カ月の腎尿素クリアランスの変化3.0mL/分/1.73m2と比較した1.5mL/分/1.73m2の調整後ハザード比はSCD 1.14(95%CI 1.08~1.43)、SCD以外の心血管死は1.24(同1.07~1.32)で、非心血管病死は1.19(同1.07~1.32)だった。

図2. 血液透析開始後6カ月間の1日尿量の変化と死因別死亡リスク

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(図1、2とも名古屋大学プレスリリースより)

 研究グループは、「わずかな残存腎機能でも末期腎不全患者の予後向上に寄与する」として、「腎機能を維持するための治療戦略を開発する必要性が明らかとなった。今後新しい治療法の開発につながることを期待したい」と展望している。

栗原裕美