治療・予防

高度肥満症に「腹腔鏡下スリーブ状胃切除術」
食べる量減らし減量促す(兵庫医科大学病院上部消化管外科 倉橋康典講師)

 胃の一部を切除して胃を小さくし、食べる量を減らして減量を促す「腹腔(ふくくう)鏡下スリーブ状胃切除術」が高度肥満症の治療として行われている。兵庫医科大学病院(兵庫県西宮市)上部消化管外科の倉橋康典講師に聞いた。

腹腔鏡下スリーブ状胃切除術は高度肥満症の治療で実施される

腹腔鏡下スリーブ状胃切除術は高度肥満症の治療で実施される

 ▽保険診療の肥満治療

 高度肥満症は、体格指数(BMI)が35以上で、糖尿病、脂質異常症、心臓や脳の血管性疾患、脂肪肝、月経異常、睡眠時無呼吸症候群などの健康障害があるか、内臓脂肪型肥満と診断された場合を指す。治療は食事療法運動療法、薬物療法が中心となるが、一時的に体重が減少してもリバウンドを繰り返すケースが少なくない。

 「2000年代に日本で腹腔鏡下での肥満手術が行われるようになり、06年には『肥満症治療ガイドライン』が発表されました。10年に腹腔鏡下スリーブ状胃切除術が先進医療として承認され、14年には保険診療となっています」と倉橋講師は説明する。

 ▽減量、健康障害も改善

 腹腔鏡下スリーブ状胃切除術では、腹腔鏡を使用して胃を80%程度切除し、胃の容量を約100ミリリットルにする。全身麻酔下で行われ、所要時間は2~4時間。感染症や縫合部の不具合などがなければ、1週間ほどで退院となる。術後は、運動食事・行動療法や血圧・血糖のコントロールを継続するため、合併する疾患に合わせて1~3カ月に1回程度、定期的な受診が必要になる。

 術後1年ほどで、術前と比較して25~35%の減量に至る。さらに、肥満が原因と思われる糖尿病などの改善にもつながるという。しかし、リバウンドによって術後の最低体重より15%以上増加してしまう人も、25~35%存在する。

 手術を受ける場合は、数カ月~半年前から減量を開始する。術後の目標体重を設定し、手術前に体重の5~8%を減らす。また、術前に1~2週間入院し、最終的な体重の調整を行う。「術前から減量を行い、意識と生活の改善を行います。術前にしっかりした食習慣ができていないと、だらだら食いによりリバウンドしたり、過食により小さくなった胃に負担がかかったりします」

 手術の目的は、肥満に合併する病気の治療や予防だ。「減量手術は、痩せようとする患者さんの背中を押し、術後の食事療法運動療法に積極的に取り組んでいただくための第1段階で、術後も努力を続けることが必要です。手術は『減量とおさらばするための治療』ではなく、『その後一生続く“太らない意識・痩せる努力″を継続しやすい体につくり替える治療』なのです」と倉橋講師は話している。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)

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