メッセンジャーRNA(mRNA)を活用した医薬品はワクチンに限らず、海外ではがん治療薬などの開発も進んでいる。専門家は「応用の可能性は無限だ」と指摘する。
 米ファイザーなどの新型コロナウイルスワクチンは、人工合成したmRNAが含まれている。mRNAはウイルス表面の突起部分のたんぱく質を作る「設計図」の役割を果たしており、ワクチンを接種してmRNAが細胞内に取り込まれると、体内でこのたんぱく質が作られて免疫ができる。
 mRNAを医薬品に利用する発想は30年ほど前からあった。ただ、そのまま投与しても体内ですぐに分解されたり、異物として認識され炎症反応を引き起こしたりしてしまう問題があった。
 カタリン・カリコ博士は2005年に発表した論文で、「ウリジン」と呼ばれるmRNAを構成する物質の一つを、似た物質に置き換えた結果、炎症が抑えられることを示した。これ以降、ワクチン実用化に向けた研究は加速し、欧米のベンチャー企業を中心に開発が本格化した。
 mRNAワクチンの最大の利点は、作り替えが容易な点だ。従来のワクチンは、ウイルス自体を増やして不活化するなどの必要があった。一方、mRNAワクチンはウイルスの遺伝子配列が分かればmRNAをそれに合わせるだけで済み、短期間で開発できる。新型コロナワクチンの開発は遺伝子配列の情報公開から1年未満で成功した。
 mRNA医薬品はワクチンに限らない。薬となり得るたんぱく質が分かれば、mRNAを投与し、体内で目標のたんぱく質を作製することが可能だからだ。欧米の企業ではがんや虚血性心疾患の治療薬について臨床試験(治験)が進む。
 国内では、東京医科歯科大の位高啓史教授(核酸医薬)らが、ラットに骨や血管の形成を促すたんぱく質を作るためのmRNAを投与し、顎の骨を再生させることに成功した。位高教授らは、軟骨の再生を促すたんぱく質を作るmRNAを用いた変形性関節症の治療についても治験の準備を進めている。
 位高教授は「mRNAを投与すれば、原理的にはどんなたんぱく質も体内で作り出せる」と指摘。「ワクチンだけでなく、希少疾患も含めたさまざまな病気の治療薬や再生医療にも応用できる。現時点では考えも付かない使い方が出てくるかもしれず、非常に大きな可能性を持っている」と話す。 (C)時事通信社